シカと農家の理想的な関係

ジャガイモを植える季節になりました。

畑の用意をしながら、ふと見ると、防獣柵に向こう側には

 

 

シカさん達がこちらを覗いています。

もうすっかり顔なじみのシカさん達です。私のことを「このニンゲンは無害で、美味しいものをくれる」と知っています。

 

防獣柵の出入口に近づくと、逃げるどころか、 

 

 

思い切り期待を込めた目で見つめてきます。なんて愛らしいのでしょうか!

 

 

 

こんなお目目で見つめられたら、何もあげないワケにはいかないじゃないですか。

ジャガイモを少々、わけてあげました。種芋が足らなくなれば、また買ってくればよい!😊

 

 

しっかりとした防獣柵さえあれば、シカたちは農地に侵入できません。それどころか、こんなにも近しい間柄になることさえ可能なのです。

これこそ、シカと農家の理想的な関係じゃないでしょうか?

 

 

しかし・・・

こんなに集まってくるとは。かわいすぎでしょう!

 

ニホンジカ7頭
(後ろに映り込んだ隣家は白塗りで消しています)

 

ニホンジカに穀物を与えることについて

ニホンジカは、ウシやヤギと同じく、反芻動物です。 

反芻動物は草食性で、繊維質の多い草や葉っぱを主食とします。飼育動物であれば牧草など、いわゆる粗飼料ですね。かれらの消化器系は繊維質を分解するように特別に設計されているのです。

その反芻動物に、穀物を多く与えすぎるとどうなるでしょうか?

 

早く太らせるため牛に穀物(濃厚飼料)を多く与えすぎると、消化器官が十分に機能できず、胃酸過多やアシドーシス(胃のpHが低下する状態)を引き起こしたり、肝臓や腎臓に負担がかかって疾病リスクが高まるといわれています。胃で分解しきれなかったアンモニアは肝臓へまわりますが、肝臓での浄化作用も追いつかなるとアンモニア中毒におちいり、牛は最悪死亡してしまいます。 

 

粗飼料=草、あるいは草をもとに作られた飼料。生の牧草・乾草(牧草を乾かしたもの)・ワラ・ススキなど、および、サイレージ(乳酸発酵させたもの)。
濃厚飼料=とうもろこし・大豆・麦・ふすま(小麦の製麦時に出る皮や糠)、糠(ぬか。米ぬかなど)

 

牛たちについて、ピーター・シンガーは『新・動物の解放』(井上太一訳、晶文社)でこう書いています。

 

しかし牛たちの標準食は、かれらの胃が草を消化するように発達したことを無視している。食事の大半を穀物が占めると、第一胃――――〔四つある〕胃袋の内、消化が始まり食物が発酵する部分――――が酸性を帯びる。牛は腹部の膨張に苦しみ、より深刻なことに、第一胃の胃壁が損傷して細菌が血流に入り込み、肝臓を汚染して膿瘍を形成しうる。全米牛肉委員会の二〇一六年品質監査は、一八パーセント近くの肉用牛の肝臓が膿瘍を理由に廃棄され、さらに一〇パーセントの肝臓が汚染を理由に廃棄されていることを明らかにした。

 

ピーター・シンガー『新・動物の解放』井上太一訳、晶文社 ISBN:9784794974549 page 209

 

上記によれば、18%+10%=28%もの肉用牛たちの肝臓に異常が認められたという計算になります。4頭に1頭以上の割合という、大変な高率です。それだけ人間が飼育効率を求めるあまり、牛に負担をかけているということです。

これはこれで見過ごせない問題ではありますが、長くなりすぎますので、その話は別の機会に譲るとして。

 

シカも反芻動物である以上、草などを主食とすべきです。パンなど穀物類ばかりを食べさせたら、健康に問題が生じる可能性があります。

 

しかし、パンやトウモロコシはシカ達にとっても美味しい食べ物。野生のシカに日常的に給餌している人は少ないだろうと思いますが、奈良ほか観光地で多数のシカ達が半馴れ状態で生活している場所があります。そのような場所で観光客がパン等を与えてしまうと、シカ達もその味を覚え、人を見るたびにねだるようになってしまう可能性があります。

また、ふれあい系の動物園では、シカを含める反芻動物の食べ物に食パンの耳等を販売していて、誰でも好きなだけ与えられるようになっていたりします。ふれあい動物園なんて、動物の健康は気にしない、とにかく「金!金儲け!」な運営形態のことですからね。言葉を話せない動物たちの健康管理には、食事内容や食欲観察は最重要項目のひとつなのに、それをアッサリ無視しているのが、ふれあい動物園。

そのような場所では、何を与えるか、与えて良いのか、よく考えてください。シカたちの健康のために。

 

とはいえ。

 

雪はシカ達の天敵です。ニホンジカの細すぎる足先は雪にズブズブもぐって、そうでなくとも少ない餌探しに大変苦労します。

 

雪の中のニホンジカ
雪の中から一歩一歩脚を引き出すだけでも大変

 

 

雪の多い年は、体力もなく餌探しのまだ下手な当歳児や、体が大きく多量の食料を必要とする男鹿から餓死していきます。人間は、彼等のふくらんだお腹をみて「ちゃんと食べているじゃん」とのんきに誤解しますけれど、おなかに詰まっているのは消化できない木の皮等なんです。多くのシカ達が、ふくらんだお腹をかかえたまま餓死してしまいます。 

 

そんな厳しい冬には、私はシカ達に食料支援をしています。芋類や大根・ニンジン等をメインに、人工的なラビットフードや穀物(食パン等)も少しですが与えています。全部合わせて3キロ~くらいでしょうか。

そのわずかばかりの食料に、毎日6~7頭ものシカ達が集まります。シカが1日に必要とする食料は1成獣につき1日3~5キロだそうですから、ぜんぜん足りません。飢えた人々に栄養バーを1本ずつ配る程度の援助です。それでも、シカたちにとっては、人間への恐れをわすれさせるほど魅力的な食料となるようで、吹雪の日でもじっと待っています。

 

ニホンジカの親子
当歳児はやわらかいパンを、親鹿はサツマイモを選んだ

 

 

ニホンジカの親子
ここでも当歳児は食べやすいラビットフード、親鹿はじゃがいもを選んでいる

 

パンやラビットフードは、冬季の枯れ草や木の皮より栄養が豊富。少量でも食べればそれなりに力が出て、その後、雪の中での食料探しをがんばってくれるだろうと期待しての給餌です。(スーパー等で簡単に入手できる食料、というのも大きいですが。)反芻動物に穀物は良くないというのは量の問題。生きるか死ぬかの瀬戸際に、わずかなパンをあれこれ言っている場合ではないでしょう。

 

しかし、毎日来ていたシカ達も、春になり新芽が芽吹くようになると、とたんに来なくなります。そこが、野生動物たちと、猫や犬など家畜化された動物との違いですね。シカだけでなく、タヌキやキツネなども、春になれば人に頼るのを止め、自力で生活をはじめる子がほとんどです。

野生動物たちの強さにはいつも感心します。

 

指定管理鳥獣

 

日本政府は今、この美しく愛らしい生き物たちを「害獣」とみなし、数を半減させようとしています。おそろしい政策です。

 

   

 

シカによる被害は、森林被害全体の約7割を占め、深刻な状況となっています。シカによる森林被害は、これまでは造林地における植栽木の食害が主でしたが、近年では成林したヒノキ等の樹皮の食害も目立つようになってきています。このような被害の発生は、林業生産コストの増大や森林所有者の経営意欲の低下を招きかねません。

林野庁「野生鳥獣による森林被害」更新日:令和6年10月23日

  

いえいえ、でしょう?

 

林業の衰退はシカが増える以前からの問題。林業(や農業)の衰退で山に入る林業者の数が激減し管理ができなくなった結果として、シカやイノシシが増えてきただけです。つまり、農林水産省の政策失敗です。

ところが、農林水産省は自分たちの失策を認めないばかりか、「シカ・イノシシが悪い!あいつらが荒らすから林業者も農業者もやる気をなくすんだ。殺してしまえ!」の大合唱です。動物達が何も弁明できないことをいいことに、人間はしたい放題です。なんて自分勝手なのでしょうか。

 

狩猟はシカ対策として有効ではありません。

 

 

そして、もし、・・・

もしその「駆除作戦」が「有効」となった暁には、その対象動物は絶滅してしまいます。エゾオオカミが絶滅してしまったように。そしてこの、ニンゲンがエゾオオカミを絶滅させたこと、それも今日のエゾシカ増大の要因のひとつとなっています。

ニンゲンの短絡的で近眼的な行動は、大自然の秩序を狂わすだけです。

 

闇雲な野生動物駆除には断固反対してください。

 

それから、間違っても「ジビエ」なんか食べないでください!

あなたがジビエを注文するたびに、山でバンビちゃんが泣くことになります。 

 

ニホンジカ

  

 

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