ニホンジカと防獣柵について

シカを防ぐには2メートルの高さが必要
私が住んでいる地域には多数のニホンジカが生息しています。農作物を守るため、どこの農地も、何らかの形の防獣柵がはりめぐらせてあります。防獣柵がなくては何も育てられない環境です。

ご存じの通り、シカはジャンプ力にすぐれた動物。シカ対策のためには2メートル以上の柵が必要となります。
とはいえ、その高さに設置するには、それなりの労力とコストがかかります。人の背より高い柵になりますから、しばしば脚立等に乗って作業する必要が生じますが、足腰の弱い人には危険作業です。ご存じの通り、令和の今、農家はほとんどが個人経営で※1、農業従事者の過半数が65歳以上です※2。
※1 農林水産省「令和6年農業構造動態調査結果(令和6年2月1日現在)」によれば、令和6年の農業経営体数は88万3,300経営体、うち、個人経営体は84万2,300経営体(95.4%)、法人含む団体経営体は4万1,000経営体(4.6%)。
※2 農林水産省「令和6年農業構造動態調査結果(令和6年2月1日現在)」の統計表「3 農業経営体(個人経営体)(令和6年)(9) 年齢階層別基幹的農業従事者数(全国農業地域別)」によれば、全国の農業従事者数111万4千人のうち、65歳以上は79万8千900人(78%)、75歳以上に限っても43万2千400人(39%)。
そのため、残念ながら、高さ不足な柵になってしまっていることが多いのです。
↓の写真の柵は、1メートルのワイヤ―メッシュの上に、電気柵の電線(柵線)を2~3段張ったものでした。地面から柵線上段までの高さは1.5メートルくらい?(写真では柵線は、シカさんが引っかかったときに切れたのでしょうか、写りこんでいません。)
たしかに、このような張り方であれば、2メートルのメッシュ柵を張るより簡単ですし、コストも安くて済みます。
ですが、これでは高さが足りませんから、その気になればシカは入ることができます。しかしこのシカさんは、戻る途中で柵に後肢が引っかかってしまい、・・・

※なぜこのシカさんが逃れられなかったのかがわかる写真をご覧になりたい方はこちらをクリックしてください(閲覧注意:モザイク無し。痛々しい傷口も写っています)。
このようなことになりますと、動物はもがきながらじわじわ衰弱死するという地獄を味わうことになります。最悪です。
また、人間側にとっても、死体を片付けるという、肉体的にも精神的にも大変苦しい作業をやらなければならなくなります。ニホンジカの成獣は50キログラム~最大150キログラムにもなります。その大きな体を、どこかに埋めるか、山奥まで運ぶか、お金を払って行政等に処分を頼むかすることになります。また周囲には糞尿や嘔吐物がまき散らされているのが普通ですし、夏場はすぐに腐敗も始まりますから、そのニオイたるや耐え難いほどになります。肉食の鳥獣が来たあとに片付ける場合は、さらに大変です。バラバラに落ちた肉片を拾って集めるというのは、体力以上に精神的にきつい作業となります。
シカ・イノシシ等が田畑内に入り込むことをふせぐには、防獣柵が最も効果的で、かつ、生態系に優しい方法でもあります。政府が推進している「狩猟」は、動物の死体が目の前に転がるから人々は錯覚しやすいものの、実際にはあまり防獣効果はありません※3。
※3 防獣柵の効果につきましては、↓こちらのページ↓をご覧ください。
しかし防獣柵を設置する場合は、対象動物の生態をよく研究し、適した材質や強度、高さ、網目(メッシュ)サイズなどを守らなければ意味はありません。いずれが不足しても防獣柵にはなりませんし、そればかりかこのような悲劇を生むことになります。
幸い、ヒトには「考える頭」があります。そう、シカたちより、頭は良いはずですよね?今の時代、情報はいくらでもタダでネットで集められます。その頭と知識をフル回転させ、観察眼と手足も動員させて、シカたちを賢く防いでください。適切な柵さえあればシカは簡単に防げるのです。殺す必要はありません。
大きな(広い)防獣柵は止めよう
防獣柵をつくるとき、多くの人は、大きく(広く)作ってしまいます。具体的には、自分の所有農地全部の境界線を、大きくグルリと囲むように作る人が多いということです。「ここは全部、オレの土地だぞ、動物は入るな」って感じで。
つまり、下図↓のようにですね。ここでは、「赤線=防獣柵=所有農地の境界線」となっています。

実際、うちの周辺でも、多くの農地が上のような形で囲まれています。しかし、このような囲み方では、一か所が破られると、田んぼも畑も果樹も、全部が被害の対象となってしまいます。
それだけではありません。
上記の張り方、東西南北、全部 “問題あり” です。
東:舗装道路のすぐ横に防獣柵
(1)支柱を深く差せない問題
舗装道路を作るときは、まず地面をしっかり固めるのが鉄則。道路すぐ横の路肩の地面も、とても固くなっています。その固い地面に何本も支柱を建てるのは至難の業。浅く突き刺しただけの支柱は、シカやイノシシがちょっと押しただけで倒れてしまいます。
積雪のある地域はさらに問題です。ブルドーザータイプの除雪車が雪を押して通れば、路肩の防獣柵はたちまち倒れ押しつぶされます。ロータリーで雪を飛ばすタイプの除雪車でも油断はできません。圧縮された重い雪塊がドンドン飛んでくるのですから、生半可な柵ではとても耐えられません。場合によっては、柵の内側に飛ばされて積もった雪に押され、柵が道路側に傾くこともあります。通行の邪魔になりますから、雪をかき分けての修復作業が必要となります。

(2)電気柵の場合
コンクリートやアスファルトは通電性が悪くなります。道路際ぎりぎりに電気柵を張ってもムダということです。また通行人が電気柵に接触してしまう可能性もあります。健康な人でもビリッときて不快ですが、ペースメーカー等を装着されている方は要注意となります。
(3)通行の邪魔に
場合によっては通行の邪魔になることも。田舎の村落内は昔のままの狭い道が多いものです。お年寄りが手押し車にすがって歩いている横スレスレを車が通るのはヒヤヒヤものです。
【解決方法】
簡単です。路肩から2メートル以上離して柵を設置すればよいのです。
2メートル以上離れていれば、たとえ人に踏まれる場所でも土はそこまで固くならず、支柱をしっかり立てられます。通行人が間違って接触する可能性もぐんと減ります。
また、もし防獣柵が道路側に倒れても、柵の高さも2メートル、路上にはみだすことはありません。
西:山際に防獣柵
じつによく見かけるんですよね。山の斜面ギリギリ、斜面が平地になる境界線上に作ってある防獣柵。おそらく、そこまでが「農地・管理地」の感覚であることや、山から下りてくる動物をふせぎたい気持ちからでしょう。
でも、これ、いちばん問題ありな設置方法です。
(1)メンテナンスが困難
山からは高木、低木、茅、ツタ類、あらゆるものが伸びてきます。年に数回は防獣柵周辺を整備する必要が生じます。しかし、斜面での作業はかなりの肉体労働ですし、足場が悪い場所も多く、危険が伴います。見通しの悪い山際に怪我をして倒れていても、誰も気づいてくれない危険性さえあります。

(2)斜面の上から動物が入りやすい
斜面の上からシカが飛び込んだり、枝や倒木、ツタ等を伝って小動物が入りやすくなります。
(3)土砂崩れや雪崩など
土砂崩れや雪崩がおこれば、防獣柵は倒れます。大きな土砂崩れでなくても、落ち葉や枯れ枝、朽ち木、石などがポロポロと落ちて積み重なって、柵の外側に積もることがあります。
【解決方法】
防獣柵を、平地部分で草刈機(仮払機)を振り回しても当たらないくらいの位置まで、斜面から離しましょう。安全に作業できますし、エンジン付きの器具や脚立も使えるようになります。

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南:土手の上縁に防獣柵
下り斜面の上の、縁ギリギリに防獣柵を作る場合です。
(1)斜面は穴が開きやすいし、開けやすい
ちょっとした土砂崩れで、たちまち防獣柵の下に穴が開いてしまいます。イノシシやアナグマが穴を掘ることもあります。
(2)メンテナンスしにくい
そもそも斜面上での作業は、草刈りにしても、柵の補強や修理にしても、平地よりやりにくいです。ましてその斜面下に水が流れている場合は、人や資材が落ちる可能性があり、危険です。

【解決方法】
土手の縁から、人間が両手を広げて歩けるくらいの幅をあけて設置します。
北:隣家との境界線上に防獣柵
住宅地で塀を建てるときと同じ感覚で、隣家との境界線上に防獣柵を作ってしまう場合です。
いくら隣同士の人間関係であっても、隣地側に勝手に入って草刈りやメンテナンスはできません。まして、土地の改変を伴う工事(穴を埋める、等)や、もともと置いてあったものの撤去などは頼みにくいものです。
しかし防獣柵は、内側より外側のメンテナンスこそ重要。外側のメンテナンスができなければ防獣柵は簡単に破られてしまいます。
【解決方法】
これも距離さえ開ければすべて解決。最低限でも草刈機(仮払機)を楽に使える幅は確保しておきましょう。
防獣柵は「小さく、狭く」が効果的
防獣柵は、「たんぼ/畑を、1枚ずつ、ひとつひとつ囲むように」設置するのが効果的です。

このように細かく囲むと総延長が伸びますから、その分、手間もコストも増えることになります。しかし、手間やコストを惜しんでは、山の生き物たちとの闘いには決して勝てません。動物達は、文字通り、「命がけ」で侵入してくるのです。防ぎたければ、こちらも本当に本気で対策する必要があります。
防獣柵は、細かく区切ってあるほど、動物達は入りにくくなります。上の柵を、さらに区切れば、もっと効果的です。
- 作物の種類によって、柵の中にさらなる対策を。
例:トマト・ジャガイモ・ピーマンが植えてあるときは、カラスの好きなトマトの畝だけ、細かいネットで天井部分まで囲む、等。 - 果樹は一本ずつ対策。
例:柵だけでなく、幹にトタンを撒くなどして登れないようにする、等。

下↓はうちの果樹園。シカは柚子の葉っぱが好きなので、苗木は1本ずつ囲ってシカたちから防御。大きな木はとくに何もしていません。下枝の葉っぱくらい食べられても何も問題はありませんし、下草を食べてくれるのは草刈りの重労働が減って大助かりですし、鹿糞はゆっくり分解されてよい肥料となりますから、むしろシカさん大歓迎です。

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ところで。
防獣柵を設置するときは、周囲に十分な空間をあけて小さく囲め、といいますと、「それでは植え付け面積が減ってしまう」と反対する人がいます。
でも考えてみてください。
欲張って、所有農地ギリギリに柵をつくって、シカ・イノシシに侵入されたら、大きな被害が出てしまいます。下手すると全滅、収穫ゼロ。しかし小さくひとつずつ囲めば、被害はでないか、侵入されたその1枚に限られ、ほかは守られるのです。その分、収穫も守られます。
どちらが得ですか?多少植え付け面積が減っても、誰にも侵入されない方が、ずっとお得ではありませんか?
ワイヤーメッシュ(金属製のフェンス)が理想
シカ対策の防獣柵であれば、最適はワイヤー製のメッシュや金属製のフェンスだと思います。丈夫なこと、耐用年数が長いこと、動物にからみつきにくいこと、等が利点。欠点は、重量があるため設置にそれなりの体力が必要となることや、コストが高めなことでしょうか。
繊維製のものを選ぶ場合は、シカ・イノシシ用のしっかりしたものを。中古魚網も良い防獣ネットになります。
ただし、金網とちがい、繊維製のネットは、動物に絡みやすいという欠点があります。雄鹿の角がからみやすいことはご想像の通りですが、角のない鹿でも、長い首や脚は以外と絡みやすいものです。ネット横の草を食んでいるうちにネットが歯の隙間に挟まってとれなくなってしまったシカさんを助けたこともあります。
また、絡みやすい、という意味では、ネットの目の大きさはあまり関係ないと思います。動物愛護活動家の中には、「鹿の角がからまないように目の細かいネットを使いましょう」と唱えている人もいますが、私には実体を知らない机上論としか思えません。シカは力のある動物ですから、シカを防ぐにはある程度の強度(太さ)のある繊維が必要となりますが、太い繊維は、どうしても目も粗くなります。一方、シカの角さえ通らないほど目の細かいネット(防風ネット等)では、強度がぜんぜんたりません。シカさんたちのネット絡まりを防ぐには、ワイヤーメッシュが最適だと私は考えます。
ちなみに下↓の写真のネットは、「防獣ネット」「アニマルネット」等とよばれているものです。中古魚網よりはかなり目も細かいタイプです。
金属製のメッシュフェンスは、たしかに設置は大変ですし、初期費用もかかります。しかしその分、耐用年数も長いです。うちの畑のメッシュフェンスは2010年に設置し、2025年の現在も立派な現役です。それに対し、繊維製のネットは5年もすればあちこち痛んで交換が必要になるような商品が多いです。設置後のメンテナンスを考えれば、コストの面でも決して引けを取らないと言えるのではないでしょうか。
なお、私が使っているのは、ホームセンター等で簡単に手に入るワイヤーメッシュ。「溶接金網」等の名称で、コンクリートの補強材として土木建築に使われたりするものです。大きさは1メートル×2メートル、1枚600~700円。それを鋼鉄製の支柱(鋳型鉄筋などの名称で売られています)に、ステンレスワイヤーでくくりつけます。
ゴンの専用ドッグランも、このワイヤーメッシュで作りました。

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よく考えられた防獣柵の実例
ご近所の畑です。(写っているのはうちの犬です。)

- 丈夫なワイヤ―メッシュは2メートルの高さがあり、シカを防ぎます。
- その上に電気柵を張って、サルを防ぎます。
- 下部をトタンで目隠しして、イノシシを防ぎます。
- トマトは天井まで防鳥ネットで囲い、カラス等を防ぎます。
昔からの「人類の友」も強力な助っ人
上の防獣柵にくわえ、頼もしい番犬がいれば効果は抜群となります。被害ほぼゼロに抑えられます。

参考書
すばらしい本があります。シカ・イノシシが出る地域で農業や家庭菜園をされている方は、ぜひお手元に置いて、いつでも見られるようにしてください。農とは関係のないが動物について知りたい方にも超おすすめな本たちです。
また、昔の日本人がシカ・イノシシを防ぐためにどれほど苦労したかがわかる本もあります。これを読めば、現代農家の苦労などものの数では無いと実感できるでしょう。
獣害と農民達の戦いを描いた小説。傑作です。
防獣用品

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ヒトもシカもイノシシも・・・
地球というひとつの惑星に生息する仲間です。地球というひとつきりの惑星に住居を分け合う仲間です。
美しい系統樹↓、その左上に小さく “You are here” と書かれている、これがヒトです。


この系統樹を見れば、我々も地球家族のちっぽけな一員にすぎないことを実感できるのではないでしょうか?
この美しすぎる系統樹は、なんとダウンロードフリーです。 (・∀・)イイネ!!
興味のある方は、ぜひこちらからダウンロードしてください。
(”https” になっていないのでセキュリティー警告が出るかもしれませんが、怪しいサイトではありません。)
You are welcome to download the following graphic image of the Tree of Life for non-commercial, educational purposes: Tree of Life (~3,000 species, based on rRNA sequences) (pdf, 368 KB)
http://www.zo.utexas.edu/faculty/antisense/DownloadfilesToL.html