動物を絶滅させたい県
SNSで「青森県がツキノワグマを事実上絶滅させようとしている」という情報が流れてきました。
それを見て「青森県が、また!?」と思わずにいられませんでした。なぜなら青森県には 前科 前例があるからです。

青森県はニホンジカを絶滅させたい
青森県には古来からシカ(ニホンジカ)が生息していました。青森県が世界に誇る「三内丸山遺跡」からもシカの骨が出土しています。シカは有史以前から、肉は重要な動物性タンパク質として、皮は衣料として、角や骨は釣り針や鏃の材料として、人々の生活を支えてきたのです。
しかし青森県のシカたちは1910年代に一度、地域絶滅しました。もちろん、人間のせいです。
その後、1990年代になって、シカたちが徐々に戻ってきました。
本県では、(中略)、1907(明治 40)年頃まで下北半島北東部には生息していたが、狩猟圧などにより1910(明治45)年代に絶滅したとされており、100年以上もの間、シカが生息しない状況で自然生態系及び生活環境が維持されてきた。しかし、1992(平成4)年に八戸市田面木字南ノ沢(八戸自動車道八戸料金所付近)でオス1頭の死体が回収されて以降、各地で目撃及び死亡個体が収容される事案が発生し、2015(平成 27)年度から目撃件数及び頭数が急増している。また、同年には県内で初めてシカによる農業被害が確認された。
『青森県第二種特定鳥獣管理計画(第1次ニホンジカ)』平成29年9月 page1
この青森県の文章の書き方、かなり恣意的だと思います。素直に計算すれば、シカは1910年代に絶滅、1992年からまた存在、従ってシカが不在だったのは1992-1910=82年となるはずです。しかし青森県は、計算の根拠となる数字(年代)を、何故か、かたや1907年まで遡り、もう片方を(目撃頭数が急増した)2015年で計算し、「100年以上もの間シカが生息していなかった」としています。これではシカ達の不在期間を少しでも長く見せるための印象操作ではないかと勘ぐりたくなります。
ちなみに、その急増したという2015年は、青森県全県で目撃件数が81、頭数が114頭となっています(『青森県第二種特定鳥獣管理計画(第1次ニホンジカ)』平成29年9月 page4)。これを多いとみるか、少ないと見るか。
なお、シカによる被害とは、農業被害(りんご園)の23万6千円だそうです。その後の『青森県第二種特定鳥獣管理計画(第2次ニホンジカ)』では、農業被害は2020年度で被害面積25アール、被害金額約44万円と増えています。森林及び自然植生被害の報告は、どちらの計画書においても「報告はない」とされています。

私としましては、青森県全体で50万円にも満たない被害金額なら、シカたちを殺してまわるより農家に補償したほうが簡単で早いんじゃないのと思わずにいられません。
しかし青森県としては、あくまで、「絶滅させたはずのシカが戻ってきたばかりか被害まで出ている、許せん!」という立ち位置らしいです。
こうした状況から、本県のシカは隣接県からの移入によるものとみられ、シカがこのまま本県に定着し、生息頭数が増加することになれば、希少植物の食害や採食圧による林内植生の減少など自然生態系への影響や農林業被害の拡大が懸念される状況となっている。
『青森県第二種特定鳥獣管理計画(第2次ニホンジカ)』page1
シカたちを定着させないために、積極的に捕殺してシカ個体群の排除を推進させる。その目標は、現代の世相上さすがに「全滅させろ」とは書けなかったか、ずいぶんボヤかした書き方をしています↓
8 管理の目標
(1)目標
新たに侵入したシカ個体群の排除により、シカの生息密度指標である平均糞塊密度を2016(平成28)年度の水準以下に抑える。
なお、今後、生息状況モニタリング調査などにより、新たな目標を設定する必要がある場合は、見直しを検討する。『青森県第二種特定鳥獣管理計画(第2次ニホンジカ)』page9
計画書では「平均糞塊密度」なんていう、非常にわかりにくい表現を使っていますが、同計画書によれば、 2016(平成28)年度のシカ目撃頭数は三八地域で112件、全青森県で160件です(同page4)。青森県の意図は、三八地域はこれと同水準まで減らせ、その他の地域は生息させるなという計画です。(この112とか160という数字は、目撃された件数のことであり、推定生息数でないことには注意が必要です。つまり同じ個体が複数回目撃されている可能性もあるということです。)
私から見れば、この計画書、事実上の「絶滅させろ宣言」に他なりません。
そう解釈したのは私だけでありません。例えば【河北新報】には以下の内容の記事が出ました。残念ながら、2025年12月現在、リンク切れとなっています。
「青森県は本年度、県内各地で急増するニホンジカ対策に全力を挙げる。1日当たりの捕獲数上限を撤廃し、事実上の「全頭駆除」を狙う。」
河北新報オンライン 2017年04月01日

ちなみに。
奈良公園のシカの頭数は、2025年7月で1,465頭。奈良公園の面積は約511ヘクタール (5.11 km²)、周辺施設を含めると約660ヘクタール。宮島(厳島)のシカも有名ですが、その頭数は500〜600頭、宮島の面積は約3039ヘクタール(30.39km² )。
これら観光地のシカたちは神鹿としての特殊な存在であり、一般地と比較すべき対象でないことは理解しています。とはいえ・・・青森県の面積は964,564ヘクタール(9,645 km²)、うち、森林面積は633,579ヘクタール(国有林395,024ha、民有林238,555ha)と広いです。しかしシカの生息頭数は、(岩手県に隣接し越境流入しやすい)三八地域に限定で112(頭?件?)がギリ許せる上限、それ以外の地域は1頭も生息してはいけないそうです・・・

ツキノワグマについても地域絶滅を図っている
ニホンジカの前例がありますから、SNSの「青森県はクマを絶滅させようとしている」というウワサに「またか!」と思ってしまったわけです。
そのウワサの出典は、令和7年11月の『青森県第二種特定鳥獣管理計画(第1次ツキノワグマ)』にあると突き止め、読んでみました。結果、「青森全地域でのツキノワグマ絶滅までは計画していないが、津軽半島のツキノワグマは絶滅させたがっている」と判明しました。

有史以前から、青森県全域にクマは生息していました。縄文時代の人々にとっても、クマは身近な存在でした。それは遺跡からの出土品からもわかります。下は『ヒグマ学入門』(北海道大学出版会、2006年発行、ISBN:9784832973916)に掲載されている図です。

うち、青森県部分をアップして着色。

この通り、青森県全土にわたってクマ造形物が出土されていることがわかります。26番宇鉄Ⅱ遺跡は津軽半島の最先端に位置する遺跡ですから、津軽半島全域にわたってクマが生息していたと推定して間違いないでしょう。
その後、近代になって一時期、この地域からクマの姿が消えました。しかし最近また戻ってきてしまった、困るというのです。
同計画書によれば、現在、津軽半島に生息しているクマの数は17~170頭の間、推定53頭となっています。このクマたちを全頭捕獲し、生息数をゼロにすることが、青森県の目標です。
ウ 津軽半島の取り扱いについて
『青森県第二種特定鳥獣管理計画(第1次ツキノワグマ)』令和7年11月 page21-22。 太字:nekohon
津軽半島は、ガイドラインにおいて監視区域に分類されており、この地域におけるツキノワグマは過去に一度絶滅していると考えられる一方で、近年、断続的に五所川原市やつがる市、外ヶ浜町でツキノワグマが目撃されていることから半島内に定着している可能性がある。
一度絶滅していることを鑑み、人との軋轢の発生防止を目的に捕獲(有害捕獲等)を実施するなどして、当該区域におけるツキノワグマの生息密度はゼロに近づけるとともに、恒久的に定着させない。


また、下北半島の地域個体群は、環境省レッドリスト2020(令和2年3月)において、「絶滅のおそれのある地域個体群」と指定されています。青森県はその下北半島のクマたちについても、推定生息数395頭(令和7年)を、260頭まで減らすと計画しています。
※追記
『クマ類の捕獲数(許可捕獲数)について [速報値]【都道府県(知事許可等)】【地方環境事務所等(大臣許可)2025/12/05』が出ました。
https://www.env.go.jp/nature/choju/effort/effort12/capture-qe.pdf
この報告に寄りますと、令和7年度の全国のクマの駆除数は、4~10月末時点で9765頭、うち、東北地方が7割近くを占めたとのこと。そのうちわけは、秋田1973頭、青森1154頭、福島1151頭、岩手989頭、山形968頭、宮城344頭。
あれれ?上記『青森県第二種特定鳥獣管理計画(第1次ツキノワグマ)』(令和7年11月)では、クマの捕獲予定数は428頭、上限526頭ではありませんでしたっけ?それが7ヶ月間で1154頭って、上限の2倍以上の数字なんですけど?
そして、また。
クマ駆除数1973頭でトップの秋田県は、『秋田県第二種特定鳥獣管理計画 (第6次ツキノワグマ) 』(令和7年3月)によれば、
令和2年4月時点の個体数は2,800~6,000頭(中間値4,400頭)と推定されている。(p.4)
目標個体数を設定するまでの当面の間は、令和6年度当初のシミュレーション結果である2,900頭程度の維持を目安に管理を進めること(p.9)
秋田県第二種特定鳥獣管理計画 (第6次ツキノワグマ)
推定生息数は「令和2年」の数字、頭数目標は「令和6年」の数字という年度ズレはとりあえず横に置くとして。秋田県のクマ生息数を2900頭にする場合、駆除可能な数は、
・推測最大数の6000頭なら3100頭
・中間値の4400頭なら1500頭
・最小の2800頭ならマイナス100頭、つまり100頭増加させる必要がある
ということになります。
しかし、今年度の前半7ヶ月間で駆除した数は1973頭。
「正確なクマ生息数はさっぱりわからないけど、2000頭近くを闇雲に駆除しちゃったよ」ってことのようで(汗)。
確かにツキノワグマはヒトにとって危険となりうる動物ではあるが
ニホンジカは全滅させろ、津軽半島のツキノワグマも全滅させろ、他の地域のクマは1/4~上限1/3を殺せ、という青森県(実際にはその上限の2倍以上を捕殺)。私には乱暴で狭量な政策と思えてなりません。もう少し共存しようという知恵はないのでしょうか?
私は京都府北部の山村に住んでいます。野生動物の多い地域です。庭にツキノワグマの大きな熊糞が残されているなんて日常茶飯事ですし、庭の柿の木は熊の爪痕が多数あり、(運が良ければ)クマさんを目撃することもあります。
この動画はうちの庭です。窓のまん前、15~6メートル先にある柿の木にクマが登る様子が映っています(2:10くらいから)。
柿の季節は、暗くなったらもう外には出ません。日中でも、家から出るときは必ず、先に玄関横のベルを鳴らして警告し、一呼吸置いてから外にでるようにしています。当然ながら、脅し鉄砲(爆竹が鳴る)やクマスプレーも持ち歩いています。
クマさんたちと共存するとは、こういうことだと思っています。

と、この通り、柿が実る年は必ずクマさんも現れる土地ですが、今年2025年は柿が豊作だったにもかかわらず、この秋は今まで一度も目撃していません。庭に熊糞も落ちていません。2025年が「熊年」と呼べるくらいに全国クマで騒がれた年であることを考えれば、庭にクマが来ないなんて、むしろ異常です。
しかし、今年はうちのまわりだけでなく、この地域全体でクマの目撃が半減しているようです。
⇒【京都新聞】『京都府北部や中部でなぜ「熊」の出没件数が半減しているのか 「柿が豊作にもかかわらず・・・」』2025年12月5日片村有宏
その理由は、京都新聞の分析によれば「里山でクマのえさとなるドングリの実り具合が府内はおおむね平年並みで、凶作となった東北とは状況が異なる」からだそうです。
つまり、山の幸が豊富なら、里の柿が豊作でもクマさんたちは里に下りてこない、ということのようです。
(追記:2025年の「今年の漢字」は本当に「熊」になっちゃいました。大当たり!)
『ヒグマとの遭遇回避と遭遇時の対応に関するマニュアル』
北海道は斜里町知床自然センター管理事務所の山中正美氏によるマニュアルです。斜里町は世界的に見てもヒグマ密度が極めて高い地域です。対象はヒグマとなっていますが、ツキノワグマにもそっくりあてはまる内容ですので、クマを避けたい方はぜひお読み下さい。誰でも無料でダウンロードできます。
『ヒグマとの遭遇回避と遭遇時の対応に関するマニュアル』
ヒグマと出会わないために!引き寄せないために!出会ってしまったら?
2002.2 改訂版 斜里町知床自然センター管理事務所 山中正美
おわりに
最後に、都会の人たちに警告です。
「クマ出没マップ」等がネット上に公開されていて、クマがいつどこで目撃されたか,一目でわかるようになっています。便利ですけれど、これ、注意が必要です。
なぜなら、目撃が報告される場所って、「普段はクマがいない場所」がほとんどだからです。
うちのように、ふつうにクマが生息していて、頻繁にその痕跡や時には実物まで見かける地域の住民は、その都度、いちいち「目撃しました」なんて報告はしません。そんな面倒なことはしません。せいぜい隣人に「さっき、クマがおったで、きぃつけや」と注意する程度です。
山に入るときは、「クマ出没マップに報告がないから大丈夫」なんて思わないで下さい。逆に、クマが多すぎて報告もされていない地域という可能性だってあります。
【クマ生息地域の目印】
- 熊棚・・・クマさんが木の枝に座って、木の枝を引き寄せ引き寄せ、木の実を食べた痕跡です(下の写真参照)。見慣れれば遠くからでも簡単に熊棚と判別できます。もっともわかりやすいサインです。
- 爪跡・・・木の幹に残っています。
- 足跡・・・雪上や、やわらかい泥・砂の上に残っていることがあります。
- 糞・・・そのサイズを見ればクマが残した物とすぐわかります。タヌキの溜め糞も大きな糞塊とはなりますが、よくみれば、小さな動物の糞が多数集まったものと判別できるはずです。人糞も大きさや形は似ていますが、クマ糞は臭くないのに対し人糞は臭く、クマ糞には未消化の種などが多く含まれているのに対し、人糞はもっとこなれている(消化が進んでいる)感じです。しかし一番の見分けポイントは、・・・山中に残された人糞の横には汚れたティッシュも必ず捨てられていること!
山は本来、野生動物達の生息地です。彼らのテリトリーに侵入するのだという意識を常に忘れないで下さい。



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