野生の赤ちゃん鹿を抱っこしちゃった

畑仕事をしていたら、不思議な鳴き声がきこえてきました。
「プウン、プウン。・・・プウン、プウン、プウン。・・・プウン、プウン」
その音は、子犬の「クウン、クウン」に近く、その「ク」音が「プ」寄りになったような声でした。
最初は、聞き慣れない鳴き声だなあ、誰だろう?何の生きもの?と思っていたのですが、そのうちに、その声が、
「ピュウン!ピュウウン!」
みたいになってきて。
なんか切羽詰まってきていない?何かあったのかな?と、畑を出て、音のする方へそっと行ってみました。
誰の声かはすぐわかりました。女鹿さんが、水路を覗き込みながら、鳴いていました。
よくみたら、顔なじみのシカさん、スキップちゃんのようです。ジャンプのお母さんです。スキップは、人の姿に慌てて数歩逃げましたが、途中で
「あ、なんだ、猫おばちゃんか」
と気づいてくれて、また戻ってきて、水路を覗き込んで、
「プウン、プウン」
何か変だと思い、水路までいって覗いてみたら、底に赤ちゃん鹿が立っていました。スキップが今年も子鹿を産んでいたのです。その赤ちゃんが、どうしたことか、水路に落ちてしまったのです。
水路は両側がコンクリートのほぼ垂直な壁になっています。

母鹿がいたのは、この水路の向かって左側、高い方でした。私の身長より高さがあります。低い方だって、ほぼ私の身長と同じくらい。大きな男鹿なら飛び上がれるかも知れませんが、あんな赤ちゃんにはとても無理です。
この水路の上流は堰堤ダムのコンクリート壁が立ち塞がっていますから、上流から脱出するのも無理。また、このあたりは水はごくわずかですが、少し下流にくだると、農業用水が合流し始めてしまいます。赤ちゃん鹿には危険な水流となります。

そしてその先は川です。大人のシカなら歩いて渡れる水深ですけれど、ところどころ深みもあり、やはり赤ちゃん鹿には危険です。
赤ちゃん鹿は、通常、触ることは厳禁です。人間の臭いがついてしまうとお母さん鹿が育児放棄することがあるからです。しかしこの状況では、私が助け出すしか無い!それも早急に、ほかの人間に見つかる前に。間違っても行政なんかに連絡されたら大変なことになりますから。ニホンジカは「指定管理鳥獣」、つまり、救助どころか「どんどん駆除しろ!」な動物。知られたら猟師が喜んでやってきてしまいます。すみやかに助け出すしかありません。
アスファルトに腹ばいになって、足からズルズルと水路におりました。そして、やさしく声をかけながら、赤ちゃん鹿に近づいていきました。
赤ちゃん鹿は私に気づくと、水の中にうずくまってしまいました。赤ちゃん鹿たちは、ふつう、草叢の中にうずくまって敵から隠れるのです。ですが、ここは水路の中。丸見え、なんて無防備な、そして無力な。
手を伸ばすと、逃げるでなく、あっさりつかまってしまいました。赤ちゃん鹿は驚くほど軽く、そして、ちょっと力をいれただけで壊れそうなほど華奢でした。赤ちゃん鹿は、子羊の「メエェ」に似た声で一声小さく鳴いただけ、あとは弱々しく脚で空中を蹴るだけです。
あまりのかわいさに、ぎゅうと抱きしめてスリスリしたくなりましたが、もちろん、そんなことはゼッタイにダメ!両の手のひら以外は接触しないように、腕も思い切り前に突き出して体から離し、なるべくニオイがつかないように運びました。こんなふうに↓。

そのまま数十メートル上流へ向かいます。たしか上流の土手は、このあたりより低かったはず。
堰堤の少し手前が、記憶通り、私の目の高さくらいまで低まっていました。ここなら手を伸ばせば赤ちゃん鹿を土手の上におけます。つま先だって、よいしょ!
無事、赤ちゃん鹿は上にあがりました♪
赤ちゃんは逃げるでもなく、そのままそこにうずくまってしまいます。本当に産まれて間もない子なのです。ずっと心配そうについてきていたスキップ母さんが、かけよって舐め始めました。赤ちゃん鹿も甘えたような鼻声をあげました。
よかったぁ!
お母さん鹿が赤ちゃんをうながして、もうすこし山際に連れて行きます。私のニオイを気にしている様子もないし、これならもう大丈夫。母子を怖がらせないよう、また下流に戻ってから、土手に開いた排水管の穴を足がかりに、上に何とかよじ登りました。ドロドロになっちゃったけど、私の心は晴れ渡っています。
念のため、少し戻って、赤ちゃん鹿をあげたあたりをそっと確かめましたが、もう母子は立ち去っていました。
お母さん鹿がスキップちゃんでよかったです。お互いよく知っている顔だから、人間が我が子をつかまえたときでさえ、逃げなかったのでしょう。これが他の鹿、あるいは他の人間だったら、どうなっていたかわかりません。
またスキップには、積雪時には毎日のように、差し入れをしていました。じゃがいも、サツマイモ、にんじん、大根、等。それらは私が素手でさわりまくったものでしたから、私のニオイにも多少はなじんでくれていたと思います。
ひとつ残念だったのは、赤ちゃんの写真がないことです。でも、突然のできごと。カメラをとりに帰る余裕はありませんでした。めっちゃくちゃに、最高にかわいい子鹿ちゃんだったのに😍😆😍。
帰宅後、猫たちを、赤ちゃん鹿を抱き上げたときと同じ姿勢で持ち上げてみました。くるるんとまろポンは5kg台。あきらかにこれより軽かった。シロロは4kg後半。たぶんこれより軽かった。故ハナが3kg台で、同じくらいだったような?
ネットで調べたら、奈良で今年生まれた赤ちゃん鹿の体重は「3140グラム」とニュースになっていました。多分、あの赤ちゃんもそのくらい。本当に生まれたての赤ちゃん鹿、それも野生の赤ちゃん鹿を抱っこしちゃったってコト?
なんて希な幸運、なんて貴重な体験、こんなチャンスはもう二度と無いでしょう。うふふふふふ~~にゃははは~~と、ニヤケ顔が止まらない😁♡♡
あの赤ちゃん、トドゥルと名付けることにします。Toddle、英語で「よちよち歩く」の意、Toddler はよちよち歩きの幼児のこと。あの赤ちゃん鹿もすぐに成長して華麗に跳躍するようになるでしょうけれど、でも!私は君のよちよち時代を知ってるもんねー。知っているどころか抱っこしちゃったもんねー。もう一生、「よちよち歩き」と呼ばれても文句言わないでね。
こちら↓はダッシュちゃんです。去年生まれの当歳児です。


野生のシカさんが窮地に陥っているところを発見したら、できるだけ、ご自身で救出を試みてください。
警察や役所などには、可能な限り、連絡しないでください。
行政が係わると、ニホンジカさんは、ほとんどの場合、殺されてしまいます。
なんと、夢のような出来事ですね。野生なら警戒心が強くて助け出すのは難しいですが、
これまでの地道なお付き合い(?)でお互いに信頼し会うことができたのですね。
鹿の赤ちゃんて、そんなに小さくて軽いのですね。この先無事に大きく育って欲しいです。
お疲れ様でした。助かってよかったです!
鹿の赤ちゃんがあんなに軽いとは、私も驚きました。
体の高さも胴の長さも猫よりずっとあるのに、猫より軽いなんて。
逃げなかったのも驚きでした。
ほんとうに無力なんだ、これでは昔のようにオオカミや野犬が山に多かったら
生き延びるだけでどれほど大変だっただろうと。
スキップ母さんが私をちゃんと見分けてくれて、逃げずにずっといてくれたのも感動でした。