ガー吉、現れる

外でガァガァ何やら争う声がして。でも、すぐ静かになって。

と思う間もなく、ガフガフ、ガリガリと、誰かがペットフードを貪り食う音。「ガフガフ」は、口の中にフードをガッポリ押し込んではガツガツ噛み飲み込む音で、「ガリガリ」は、ステンレス製のお皿が鼻先に押されてコンクリートとこすれて出す音。

こんな食べ方をするのは誰だと外を見たら、お皿の上にガバっと覆いかぶさって夢中で食べているアナグマがいました。もう暗い時間でよく見えませんでしたけど、その食べる様子からたちまちわかります。これは穴吉ではない、 別のアナグマだ!

さっきやりあっていた相手が穴吉か?それとも別の子、キツネのアユムかハクビシンのパムか?

穴吉が近くにいるかもしれないと思い、穴吉の好きなパンも持って、外に出てみました。

私の姿に驚いて、1頭のアナグマが逃げていきました。ますます穴吉ではありません。穴吉なら私から逃げるどころか、「わぁい、パンだね?」と寄ってくるのですから。このように。

私が外に出ると、さっきのアナグマとは逆の方向から、とことこと近づいてくるアナグマがいます。こっちが穴吉。私の足元まで来て、期待たっぷりに見上げてきます。パンを差し出すとパクっとくわえて、いつも通り、車の下に運んでモソモソと食べ始めました。この食べ方こそ穴吉。穴吉は食べるのが笑っちゃうくらい遅いんです。私が仲良くなれたアナグマは穴吉が初めてでしたので、アナグマってのんきな食べ方をする動物なんだなあと今まで思っていたのですが、そうか、これは穴吉の個性だったんですね。アナグマでもあんなにガツガツ、ガフガフと食べる子もいるんですね。

その後、その新顔アナグマさんは毎日くるようになりました。まず穴吉と仲良くなり、というか、少なくともケンカはしなくなりました。ならば名前を付けなくちゃ。多吉とか、大吉とか、縁起の良い名前もちらりと考えましたけれど、最初の登場がなにしろ

「なんてガーガー、ガリガリ、ガツガツとG音の多い子だ!」

これじゃあ「ガー吉」っきゃないでしょ!

というわけで、ガー吉です。その後も相変わらず、お皿の上にガバっとかぶさってガツガツと食べています。

 

約2週間後には、私の存在にも慣れてきました。ニホンアナグマはあまり人を怖がらないとされていますけれど、本当のようです。キツネとかではこうはいきません。まだ穴吉のように近寄ってくることはありませんが、私の気配だけですっとんで逃げることはなくなりました。

ニホンアナグマのガー吉
ニホンアナグマのガー吉

 

穴吉とガー吉。明るい場所であれば、色合いも顔つきもけっこう違っていて、簡単に見分けられます。

ニホンアナグマの穴吉とガー吉

 

上に書いた相違点のほかに、決定的に違うのがその態度。穴吉があまりにおっとりしているので「アナグマって呑気な動物だなあ」と思っていたのが間違いだったとわかりました。ガー吉は人が来れば逃げますし、ガツガツと食べます。のほほん穴吉とガツガツガー吉、それぞれ個性が面白いですね。

おっとり穴吉と、がっつきガー吉

新参者のガー吉は、まだひとつのお皿から分け合って食べるということができません。穴吉の方がこの場所では先輩なのに、このありさま。

もちろん、お皿は複数おいているのですが、ガー吉はまず自分のを食べて、それから穴吉のを奪うのです。ガツガツ食べるガー吉とくらべ、穴吉の食べ方はとても遅く、簡単にとらえてしまいます。

穴吉はペットフードだけでなく、私から手渡しでもらうパンも食べていますので、飢えることはありませんが。

猫やタヌキたちと同じように、ひとつのお皿から仲良く一緒に食べられるようになるのでしょうか?アナグマは群居動物ですから、仲良くできそうに思うのですけれど。

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