其角(きかく)【俳句】

猫と本

【文献で詠われた猫たち】シリーズ。

其角(きかく)

『其角俳句と江戸の春』(半藤一利著)という本から拾った其角の猫俳句。

  • 京町の猫通ひけり揚屋町

京町も揚屋町も、新吉原の廓内にあり、隣りあっていた。
なので 「句の意はそのままとれば、京町の恋猫(遊女)が揚屋町まで 通っていった、とそれだけのものになる。」(p.37) が、それでは其角という人物の理解が足りないという。

これは本物の猫が、薄雲太夫のような花魁に伴って(伴わされて) 京町から揚屋町まで通った、その流行を面白おかしく詠んだ句だ、 という解釈もあるそうだ。

私(管理人)はそれならいっそ、花魁の飼い猫が花魁の目を偲んで、 勝手に通って(薄幸の花魁達と違い)立派に恋を成就させた、 猫は自由でいいなあ、くらいに解釈したいところだ(^_^)。

なお、この其角の句をふまえたと思われる永井荷風の句も紹介されている。

  • 色町や真昼しづかに猫の恋
  • ねこの子のくんづほぐれつ胡蝶哉

この句はこのまま、解釈して良いらしい。
子猫たちがじゃれあって遊んでいる、そこへ蝶々がひらひら、 ますます子猫が遊んで、ああ、のどかな春の日よ。

  • 春の夢胡蝶に似たり辰之助

この句のどこが猫の句なのか、分かる人おそらく、ほとんどいないだろう。 なので本からそっくり引用させていただく。

『・・・元禄中期から末期のころの人気役者、水木辰之助と判明する。 今日でいえばスターの女形である。松崎仁さんの好著『元禄演劇研究』 によれば、市村座の顔見世狂言「四季御所櫻」が大当たり。 お姫様が恋した男がなんと実の兄。そうと知って落胆し死ぬほどの哀しみ。 ところが、猫の世界では兄妹でも恋するのをみて羨み、お姫様はついに 猫となって胡蝶に狂う。この唐猫の踊りが天下一品で、江戸中の喝采を 浴びたらしい。
「これを辰之助がねこの狂言とて、むかし人の、のちのちまで語り草にせしとぞ」
で、この句はただちに恋猫の句と江戸の人にはピーンときたらしい。・・・』
(p.56~)

  • かげろふにねても動くや虎の耳

「四睡図」の前書きがある句で、「四睡図」はふつう、豊干禅師・寒山・捨得(以上人間)と虎が 眠っているのを描くのがふつうだという。 その、眠っている虎の耳がかげろうにも動く様子をよんだ句というわけだが、

「ただし、実際の虎を動物園なんかで自由に見るわけにはいかない時代である。
陽炎のようなかすかな気配にも、眠っていながらピクピクと耳を動かすなんて、
知りようもないはずで、おそらく眠っている猫の生態でも想いだしながらの作ならん。
(中略)猫をもって虎に替える其角の才力はあっぱれである。」(p.59)

と、半藤氏は解説している。
私としては、虎でも猫でも同じネコ科なのだから、これも猫俳句にゃのである。

  • むら千鳥其の夜は寒し虎がもと

この句も「虎」が出てくるが、残念ながら、この「虎」は人間。 「虎御前」という名の遊女で、曾我兄弟の兄の十郎祐成の愛人だそうだ。 そして、この虎御前が建久四年(1193年)五月二八日に、恋しい人の死を悲しんで 大いに泣き、以来、この日は決まって雨がふるようになり「虎が雨」というようになったそうな。

其角について

きかく。宝井其角、または、母方の姓から、榎本其角とも。 寛文元年(1661年)~宝永4年(1707年)。 号は晋子・狂面堂・螺子など。

参考文献

ハート尻尾の猫

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