野良の子猫(赤ちゃん猫)を保護する最適な時期は?

野良猫が子猫を産んでしまうことがあります。

一番理想的なのは、母猫ごと保護し、室内で出産育児してもらうことであることはいうまでもありません。

しかし人馴れしていない母猫の場合、母猫の捕獲が困難な場合があります。そのようなとき、子猫だけでも保護して、自分が飼うなり里親募集するなりしよう、と考える人は多いでしょう。

では、いつ子猫を母猫から引き離して保護すべきでしょうか?

私は、子猫が母猫の初乳(※)を飲んだらすぐ、具体的には生後3日目が理想だと考えています。(※初乳=産後直後にだけ出るお乳。初期発育に欠かせない各種栄養素や免疫成分がたっぷり含まれている。)

出産日がわからなかったり、あきらかにそれ以上の日齢の子猫の場合は可及的速やかに、できれば子猫の存在に気づいたときにすぐ保護するのが良いでしょう。

・・・と言いますと、しばしば反対されます。

「そんなの可哀想。せめて乳離れするまでお母さんと一緒にいさせてあげたい」

お気持ちはわかります。よくわかるんですけれど。

でもはやり私は、子猫の保護は、初乳さえ飲めばあとは早ければ早いほど良いと考えています。

子猫の保護は、早ければ早いほど良いと考える理由

  1. 野良猫の育児場所は、ほとんどの場合、安全とは言い難いこと。他の人間に見つかって捨てられたり、犬・カラス・ドブネズミその他に襲われることがある。
  2. 同じく、ほとんどの場合、清潔とは言い難いこと。病原菌、寄生虫、ノミ、ダニ、等。とくに赤ちゃん猫時代には猫風邪にかかる子猫が非常に多く、抵抗力の弱い子はすぐに弱って死んでしまう。たとえ命が助かってもその影響で失明する猫は多い。
  3. 赤ちゃん猫は体温調節ができないし、子猫に成長してからも下手。寒さにも暑さにも弱く、また万が一水に浸かっても逃げられないことは多い。
  4. 母猫の母乳が十分かどうか確認できないこと。子猫時代の栄養不足は一生分の体づくりに影響。
  5. 万が一母猫に異変があった場合、最悪子猫も餓死してしまう。
  6. 母猫が子猫を連れて引っ越し、行方不明になってしまうのはよくあることである。
  7. 子猫の成長は早い。ちょこまか走り回れるようになったと思った頃には、実は素早くなりすぎていて、人間にはもう捕まらない場合もある。

以上のほか、もうひとつ、重要な理由があります。「人なれ」の問題です。

子猫時代に人とどのくらい接したかで猫の一生は決まる

甘えん坊な猫ほど可愛い、というのは事実。人馴れしない猫ですと、お世話したくてもできなかったり、どうしても目がいき届きません。猫の方も常に人間にビクビクして暮らすことになり、幸せな飼い猫にはなれないでしょう。

しかし、猫が人に訓化する期間はかなり短く、海外の研究によると生後数週間で決まってしまうそうです。

以下、ジョン・ブラッドショー著『猫的感覚:動物行動学が教えるネコの心理』から抜粋。1980年代に行われた実験結果です。

第4章 すべてのネコは飼いならされることをまなばなくてはならない

ネコは生まれつき人間と親密なわけではない。生まれてすぐに人間と親密になることを学ぶのだ。

(中略)

研究者は生後三週目から手で触る子ネコ、七週目から触る子ネコを分け、残りは一四週目になってようやく触りはじめた。(中略)予想どおり、三週目から触られた子ネコは生後一四週目になるとうれしげに人間の膝にすわった。しかし、人間との接触が生後七週目まで遅れた子ネコは三〇秒で膝から飛び下りた。もっとも一四週目まで触られなかった子ネコほどすぐではなかったが。彼らは一五秒も膝の上にいなかったのだ。

(中略)

それぞれの子ネコが部屋の向こうにいる飼い主のところに行く機会を与えられると、三週目から触れられた子ネコだけが確実にそうしたのだ。しかもただちに行動に移し、その時点ですっかり親密になっていたその人間に惹かれているという印象を与えた。七週目から触れられた子ネコと一四週目まで触れられなかった子ネコは、人間をわけもなく怖がってはいないようだったし、そばまで近づいていくこともあった。抱き上げてもらいたがる子ネコもいたが、このふたつのグループは行動にさほど差異はなかった。

七週目から触れられた子ネコは、その後テストをするまでの期間も触れられていたが、そのことは人間に対する強力な愛着を築くまでには至らなかったようだ。かたや三週目から触れられていた子ネコは、強い愛着がはっきりと見てとれた。

(中略)

その結果、ネコはイヌよりもはるかに早く人間について学びはじめる必要があると、科学者は結論付けた。(中略)生後九週目になって初めて人間と触れあった子ネコは、その後ずっと、人間がそばにいると落ち着かなくなる可能性がある。愛情深いペットの道を歩むか、残飯をあさる野良ネコの道を歩むかは、ネコの一生の早い時期に分かれるのだ。ただし、あまり早いと、ほとんどのネコが人間との関係を築くことはできないだろう。

ハヤカワノンフィクション文庫 ISBN:9784150504991 page 124~126

生後3週目といえば、体重は多くて400g。ヨタヨタ歩こうとはするが、いかにも頭が重そうで、まだ「ちゃんと歩けている」状態とは程遠く、見るからに頼りなさげです。まだ固形物は食べられません。誰が見ても、子猫というより赤ちゃん猫状態です。しかし動物学者のブラッドショー氏によれば、その幼さから人と触れ合う必要があるというのです。

さらに、本に書かれていることを簡単にまとめますと、

  • 生後四週から八週までに人間が子ネコに触れることは、子ネコが満ち足りたペットになるには不可欠のようだ。(page152)
  • 六週目までまったく人間と接触がなかった子ネコは、扱うのが簡単ではなく、なでられてもめったに喉をゴロゴロならさい。(page153)
  • 八週目まで保護されなかった子ネコは扱うのがむずかしく、一〇週目まで発見されなかった子ネコだと、最初のうちはまさにヤマネコのよう。(page153)

「乳離れするまでお母さん猫と」では遅すぎることがお分かりいただけると思います。

※成長過程についてはこちらのページ↓をご覧ください。

ところで本書でブラッドショー氏は、「生後一〇週くらいまで人間とあったことのない子ネコはペットになるのは不可能だ」とまで書いています。でも私はぜんぜんそうは思いません。現にうちの虎太郎の保護時の年齢は推定3か月(12週)で、おそらくそれまで人間に優しく接せられたことはまったくなかった猫と思われます。が、4歳の現在、私にはベタベタ甘えてきます。しかし確かに、私以外の人間は極度に警戒し、動物病院では石のように固まってしまいます。ブラッドショー氏がいう「ペット」が、「誰に対してもフレンドリーで、どこにいっても落ち着いていられる」性格をさすのであれば、虎太郎はペットとしては失格かもしれません。しかし、飼い主だけになついて必死に甘えてくる猫の可愛さといったら別格です。まさに我が子ってかんじで、それは愛しいものです。

野良の赤ちゃん猫は人工哺乳の方が健康に育つ

野良猫の生活は過酷です。野良母さんはしばしば栄養失調で痩せ細っています。また誰かに毎日食料をもらえる子であっても、その育児場所は理想的とはいえない場合がほとんどです。

それに対し、人工哺乳であれば、栄養満点、清潔で安全。初乳さえしっかり飲んでお母さん猫の免疫力をもらっていれば、その後は人工哺乳の子猫のほうが、野良猫母さんに育てられる子猫より、ずっと健康に育つ事ができます。

子猫の人工哺乳は、最初は数時間ごとにミルクを与えなければならず大変ですけれど、幸い(?)人間の赤ちゃんと違って、1カ月で離乳してしまいます。しかも赤ちゃん猫がミルクを飲む様子は殺人的にかわいい!私の知る誰もが、「授乳中は睡眠不足になったりもしたけど、もう離乳なんてさびしい、もう少し赤ちゃんでいてほしかった」と口をそろえて残念がるほど。

人工哺乳のしかた等については、下記ページ↓をごらんください。

人工哺乳で育てられた猫さんの詳細な記録はこちらから↓。

その他の記事はこちらをご覧ください。

子猫は失明しやすい

この子↓は、うちのくるるんです。保護したときは、ひどい猫風邪で目は目ヤニでふさがり、なんとか拭き取ったあともこのとおり、見るからに痛々しい目でした。その後、命はなんとか助けらましたが、失明してしまいました。

 

子猫が猫風邪に罹患すると、目ヤニ・鼻水に苦しむことになります。

とくに目ヤニは子猫にとって脅威となりかねません。と言いますのも、目ヤニで両瞼がふさがってしまうと、子猫の力では開ける事ができなくなります。その結果、目ヤニの下で眼球が傷みひどい場合は腐敗することもあります。また例え、そこまでひどくなる前に人間に保護されてきれいに拭きとってもらえたとしても、視力に問題が生じることが多いのです。

左眼対応ニューロンと右眼対応ニューロンの出現が、体験によって阻害されることもある。神経生物学者のデイヴィッド・ヒューベルトとトーステン・ウィーゼルが、ネコとサルの赤ちゃんの片眼を覆った状態で育てたところ、視覚野の受容ニューロンすべてが見えているほうの目を受けもってしまい、覆われたほうの目は視覚機能を失ってしまった。動物の発達段階の、臨界期に目が覆われると、たとえそれが短期間であっても視覚は二度と回復されない

(注:太字nekohon)

スティーブン・ピンカー『心の仕組み』ちくま学芸文庫 ISDN:9784480095008 page 457

つまり、赤ちゃん時代に短期間、片目が目ヤニでふさがっているだけで、その子のその目は一生、見えなくなる可能性があるということです。両眼視ができなければ立体視もできないということですから、猫らしい動きもできなくなります。

 

大人猫は保護できないのか?

結論から申せば、猫は、大人猫になってからでも馴らすことは十分可能な動物です。なぜならば猫(生物学のイエネコ)は「家畜化」された動物だからです。

「家畜化」とはつまり、脳の構造が野生時代とは異なってしまっているということです。中でもとくに恐怖や興奮性に関係する部分が大きく縮小しました。その結果、脳の中身からして、人に馴れやすい動物に変化しています。その辺がヤマネコと違うところです。日本でも人気のマヌルネコやスナネコは、見た目も動作もイエネコそっくりで、まことに愛らしいネコ科ですが、彼らはイエネコのようにはなつきません。子猫時代はイエネコそっくりに甘えてきても、成長するにつれ、野生化していきます。しかし愛情たっぷりに育てられたイエネコは、性成熟しても老年期にはいっても、子猫時代とかわらず甘え続けます。むしろ壮齢時代より高齢期の方が甘えん坊になる猫は多いです。

ただし、上に「馴れる」ではなく「馴らす」と書きました。大人の野良猫を飼い猫にするには、正しい手順で正しく馴らしている必要があります。野良猫の扱いになれている人であれば難なく馴らすことができるかもしれませんが、猫初心者の方は苦労するかもしれません。幸い最近はSNS等で、ベテランボランティアさんたちの話など豊富に読む事ができますし、アドバイスももらえるでしょうから、大人猫を保護された方もあきらめずにどうぞ猫さんをかわいがってあげてください。

※狩りで生活していたような大人猫達を多数捕獲して全員人馴れに成功させた実例↓

私が保護した大人猫「まろ」。大怪我をしていたので保護するしかなかったのですが、最初のころは「シャーシャー魔王」とあだ名されるほど野性的でした。

それが、今ではこの通り。私の膝で甘えています。

まろの治療の様子はこちら↓。治癒後、一度は外にリリースしましたが、様子から人馴れさせられると確信し、再保護、現在に至ります。

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