悪戯帖 その2
トロの胃袋
トロがまだ2歳になったばかりだった時。
いつものように、7枚の猫皿にごはん(カリカリ)とおかず(猫缶)を入れ
「ごはんよ~」と呼んだ。
いつもならワラワラと猫たちが集まってくるのに。
なぜかトロしか現れない。
他の猫たちはどうしたのだろう、と、探しに行くと。
どこから忍び込んできたのか、巨大ムカデを囲んで、大捕り物劇の真っ最中なのだった。みんなでよってたかって、ムカデを追跡するが、ムカデの一刺しの強烈さを本能的に知っているのか、ネコといえども、なかなかとどめをさせない。
しばらく手こずっていたが、それでも最終的にはムカデをやっつけてしまった。 死んでしまったムカデはガムテープで始末した。 あーめん。
それから 意気揚々と、遅れた夕食に全員で向かったのだが。
台所に着いて唖然。 7つのお皿が、いずれも空っぽ。そして、かたわらには、いかにも満足そうに 顔を洗っているトロの姿が。
「やだ~~!トロちゃん! アンタ、まさか、ひとりで7人分、食べちゃったの」
「ウニャ」
2人分とか3人分ならともかく、 7人分だよー!? もぉ、信じらんなーい!!
トロたんは、翌日さすがにお腹こわしてピーゴロゴロ・・・ なんてコトはまったくなく、 実に健康的な人間並みの大ウンニョを沢山出して、 翌日の朝ご飯もちゃんと召し上がったのでございました。 ああ、これじゃあ、太るワケだよ。

トロの味覚
トロがまだ子猫(若猫)の頃の話です。
ある人のおみやげに、‘そば饅頭’ をもらいました。 平たい箱の中に、和紙で包まれた一口大の饅頭が きれいに並んで入っていました。
箱の蓋をして、その晩は寝ました。
翌日、起きてみたら、部屋中に和紙の破片が散らばっていて、 饅頭は、一箱、ほとんど全部食べられていました。
「ちゃんと蓋もしてあったのに・・・ 蓋を開け、和紙を食いちぎってまで、中身を一箱全部食べたのは誰?」
猫達全員で食べたのかな、と、思いましたが、・・・・ 猫達の朝ご飯を用意したら、 他の子達はパクパク食べるのに いつも一番食欲があるトロが食べません。
「さ~て~は~ トロ!ひとりで饅頭を全部食べたんでしょう」
「うにゃ」

その、しばらく後。
‘三笠’ という和菓子をご存じですか。 そう、別名‘どら焼き’ とも言うお菓子です。
その‘三笠’が、3個、テーブルの上に残っていました。 友人が遊びに来たときの事です。
友人が帰るというので、見送りがてら少し外に出ておりました。 その間に、例のごとく、トロが盗み食いしました。
あの、大きな‘三笠’ を、2個ぺろりとたいらげ、私が見たときは3個目をむしゃむしゃ食べていました。他のねこ達は、臭いはかぐけれど、食べようとはしていませんでしたから、やはりトロひとりで食べてしまったようです。
あわてて取り上げましたけれど、3個目もほとんど無くなっていました。

それから、さらに、しばらくの後。
名古屋名物‘赤福’ という和菓子があります。 白い餅が、箱に並んでいて、あんこがビッシリ、 塗ったように詰めてあります。
その‘赤福’ のあんこを、トロがまた舐めました。このときは、顔中あんこだらけ、お手手もあんこだらけで一発でばれました。
「あのね~。 ネコは普通、饅頭やあんこは食べないの! なぜそんなに、あんこ系が好きなの?」
それから、またまた、しばらくの後。
トロがあんパンをくわえて、 だだだーっと逃げていきました。
それから、またまた、しばらくの後
・・・・・・・
(キリがないので止めます)

トロ 「ネコがあんこ好きでもいーじゃんか」
トロの腹時計
うちのねこ達の晩ご飯は、7時頃です。
夕方5時ともなると、トロが落ち着かなくなります。 うろうろ、うろうろ、私の後を追いかけては、何か言いたげに私の顔を見上げます。
6時になると、他のねこ達を起こしにかかります。みけやおつうを追いかけ回したり、 レオにちょっかいを出して怒られたり。 意味もなく、そこいら中を走り回ったりします。
6時半になると、台所にいって、遠吠えします。うなぁおおおおおん、うなぁおおおおおおおおん。 あうぅぅぅぅううう、わおぉぉぉぉぉ。
7時。 やっと、やっと、お待ちかねの‘ごはんタイム’。
キラキラと輝く目で、足踏みしながら待ちかまえているトロ。 そのトロの目の前にお皿を置くと、
「うわーい、ごはんだぁ!」
と、嬉しそうに私の顔をジット見つめ
「じゃあねっ!いっただっきまぁぁす!」
と、お皿にかがみ込もうとしますが、・・・
何しろ、全体にスローモーションがかかっているものですから、 ノラ上がりのおつうなどには、完全にスピード負けしているのです。 トロがお皿にかがみ込もうとした時には、 すでに、トロの顎とお皿の間に、おつうの頭が差し込まれ、つまり、おつうに横取りされているのです。
「あららぁ?」 と、驚くトロ。
お皿はねこの数だけあるのだから、 もし取られても、すぐ横に別のお皿があるのですが、 トロたんは、ショックのあまり、別のお皿が目に入らない。
ぼーっとおつうの頭を眺めているうちに、 他のお皿にも次々と、ねこ達が頭をつっこんで、一番最初からあんなに待っていたトロは、椅子取りゲームに完全に出遅れてしまうのです。
パクパク食べているみんなの後ろで、悲しそうに茫然自失しているトロ。
「ほら、ここが空いていますよん」
と、 抱き上げて、空いたお皿の前に置いてあげないと、 いつまでも食べられないのです。
このネコは、ノラになったら生きていけませんね。
