猫との対話

今年(2003年)は冷夏です。8月上旬はお天気の日が多く、一時期はかなり暑かったのですが 暑い日は続かず、雨ばかり多い夏となりました。去年のような水不足も困るが、冷夏も困ります。農作物に大きな被害が出てしまいます。

暑い夏の日は、現金な猫達は私に寄りつかなくなります。甘ったれのレオでさえ、離れた所にデレンと寝転がって、膝の上には乗ろうとしなくなります。

が、今年のような冷夏ですと、猫達は遠慮無く甘えてきます。

今年のお盆は、妙に涼しい日が多いお盆でした。その日は朝から雨でした。ざあざあ降っていました。夏の雨というより、まるで秋雨のような、冷ややかな雨です。気温も全然上がりません。最高温度でわずか24度くらい。 ほとんど肌寒いくらいの日でした。

ずらり並ぶ猫達

さて、その朝。

私は朝起きて、まず猫達に朝ご飯をあげます。猫達は一斉に集まり、カリカリを食べます。それから私も朝食をとります。

私が食べ終わるのを待ちきれず、猫達が次々膝に乗ってきました。

みけは「うなあ、うなあ」と鳴きながらしばらく私に甘え、満足すると、他のねこ達が残したカリカリを食べ始めます。この子は毎朝、まず甘えてからでないと、自分の朝ご飯を食べない子なんです。

ビクは、私の顔を見上げ、「にゃあお」と一声だけないて、首をかしげておじきします。私も「にゃあお」と答えて同じくおじきします。私は一応これを「ビクの芸」と呼んでいますが、もしかしたら、ビクの方こそ
「ママに芸をしこんだ」
と思っているかも知れません。この儀式の後に抱っことなります。ビクは、思い切り抱きしめてスリスリしてキッスの嵐、というのが好きです。

ビク

ちびまる太は、こそっと膝にのってゴロゴロゴロと言ってすぐ降りてしまいます。臆病で遠慮深い男の子です。

一方、チャトランは抱っこよりナデナデして欲しい子。他の猫達が抱っこされている間中、私の横でずっと、 「ニャン、ニャン(ナデナデして、ナデナデして)」とうるさく鳴き続けます。

レオは起きてしばらくは、全身の洗浄に余念がない。非常に丁寧に、ほとんど神経質に、体中を舐めまわします。

トロは、その間ひとり、延々と食べ続けています。

おつうは、どこかで勝手に行動しています。

さて、一段落付いたところで、よいしょ、と立ち上がろうとするとレオがとことこやってきて、私を見つめ
「ニャア」。

レオ

レオはとてもよく鳴く子です。男の子とは思えないおしゃべりなのです。しかも、ちゃんと会話が成立するところが面白い。 人間同士が話すときと同じように、レオは受け答えするんです。 以後、レオとの会話。

「ニャア」
「なあに」
「ニャア、ニャア」
「そうね」
「ニャア、ニャア、ニャア」
「そうなの?」
「ニャア!」
「だめよ」
「ニャア~!ニャア」
「だって今起きたばかりでしょう」
「ニャアアア!」
「そんなこと言ったってね・・・」
「にゃああああ」(ひらがなになったのはレオの声が裏返ったからです。)

しかし、これでは皆さんには何のことだか分かりませんね。 それでは通訳しましょう。
私の勝手な猫語通訳ですけれど、多分当たらずとも遠からずだと思うのです。

「あのねえ」
「なあに」
「今日は涼しいね」
「そうね」
「ボクの予感では、今日は一日雨だよ」
「そうなの?」
「だから、ダッコでねんねしよ!」
「だめよ」
「どうして?涼しくて雨なら、ダッコでねんねだよ」
「だって今起きたばかりでしょう」
「雨の日はネコは寝るの!」
「そんなこと言ったってね・・・」
「ダッコでねんね、ダッコでねんねするぅ」

猫さんは日がな一日寝ていられますけれど、私はそうはいきません。 いくら一人で雨の日でも、することは色々あります。 騒ぐレオを無視して、私はコンタクトレンズを入れる為に洗面所へ。

「あ、洗面所へいくの」とレオ。
「そうよ」
「ボクのブラッシングだね♪」
「あら、誰もそんなこと言っていないわ」
「ブラッシング、早くぅ」
「ママはレンズを入れているの」
「ブラッシング、ブラッシング」
「ちょっと待ってよ」
「何してるの!ママがブラッシングすると言うからボク、眠いのにきたんだよ」
「そんなこと、言ってないんだけれどなあ」

しかし、レオの視線と鳴き声には勝てません。
ちょいちょいちょいとブラッシング。

レオ

それから、私の部屋へ行こうとすると・・・
「パソコンかあ。 ま、いいよボク、パソコンでも」
「違うったら」
「パソコン、パソコン♪」
「朝っぱらからパソコンなんかしないの」
「どうしたの、早く坐りなさい」
「パソコンじゃないったら」
「あのね、ボクはホントは布団で寝たいんだよ。
ママがパソコンするというから仕方なく来たんだよ。
グズグズしていないでさっさとしなさい」

私の顔を見上げ、パソを見、また顔を見上げ、パソを見、
ニャア、ニャア、ニャア、と鳴くのです。

「わーかった、もう、うるさいなあ。メールチェックだけよ」

根負けしてパソの前に座ると、すかさずレオが膝に飛び乗り箱座り。 仕方なく掲示板のレスなどもつけて、さて
「レオちゃん、降りて~」
「いやだ」
「お願い、降りて」
「いやだ」
爪を立てて膝にしがみつきます。 少々痛い。

涼しい日、寒い日はレオは膝乗り小僧と化します。 暑い日なら抱き上げてもすぐ逃げていくくせに。

そのレオをなだめすかして、なんとか降りて貰って、台所へ行くと、 のそのそついてきたレオは、今度は、冷蔵庫にすりよります。

「そうか、ボクもそろそろおやつ欲しいと思っていたんだ」
「違うって」
「おやつ、なあに?」
「レオのおやつじゃないの」
「なあに、なあに?」
「さっき朝ご飯食べたばかりでしょう」
「ボク、かつおぶしがいいな」
と、一緒に冷蔵庫をのぞき込みます。
「かつおぶしはダメよ、今はおやつは無しね」
「あれ?閉めるの?あ、猫缶? それでもいいよ」
「だから、おやつではありませんってば」
「ここに入っているんだよね、猫缶」
レオは先回りして、引き出しをカリカリ引っ掻きます。
「おやつではありません」
「猫缶早くぅ」
「まだおやつには早いでしょ」
「早くぅ」

あまり鳴かれると、ほかの猫達も集まってしまうので (おやつの催促だけは、他の子達も聞き分けます) 仕方なく花カツオをほんの1枚、ひらりとあげました。 もともと空腹なわけではないので、レオはそれで満足してくれます。

レオ

「で、」
と、伸びをしながら、またレオが私の顔を見上げ、
「次はやっとダッコでねんねだね」
「あのねー」
「さあ、ダッコでねんね」
「しません」
「ダッコでねんね」
「しませんったら」
「ダッコでねんね」

レオは本当によくしゃべりますから、多分一般家庭の夫婦の会話より レオとの会話の方が多い毎日なのです。 いつもこんな感じに、会話しているのです。 お昼頃には、レオもさすがに眠くなって、気に入った片隅で寝てしまうのですが。

やっとレオから解放されても、すぐに他の子が来ます。 皆、よく見張っていて、私が一人になる時を待っているのです。

「ニャン、ニャン、ニャン、ニャン」
「あ~あ、またうるさいのが来た」
「ニャン、ニャン、ニャン、ニャン」
これはチャトラン。

この子とは、レオのように、受け答えのある会話は成立しません。 もっぱらチャトランが一方的に「なでて」と要求するだけです。 「ニャン、ニャン、ニャン、ニャン」と鳴き続けます。

すると、勘違いしたビクが慌ててやってきて、私の顔を期待に満ちた目で見上げます。 これは「ブラッシング・タイム?」と期待しているのです。 うるさいから、チャトランとビクをつかまえて換わりばんこにブラッシング。 気配を聞きつけて、みけとちびまる太もやってきます。 たちまちあたり一面に舞う抜け毛。 この4頭はブラッシングが大好き、皆ゴロゴロ言いながら競争してブラシの下に潜り込みます。

そのうちに、トロもやってきます。 が、トロの場合はブラッシングして欲しいからではありません。
「みんな嬉しそうにゃ?きっとおやつにゃ?」と勘違いしているのです。
トロはひとり、空のお皿のまわりをウロウロ。

トロ

ブラッシングの後は、まず抜け毛をざっと手でかき集め、 それから掃除機とコロコロで掃除します。 掃除機嫌いな子が多いので、掃除機さえ出せば トロ以外の猫達は散っていきます。 トロだけは掃除機が恐くないので、その間中も、お皿のまわりをウロウロしています。

掃除機が終わる頃には、トロはすっかり待ちくたびれています。
「んんんなあああ?」
とわびしそうに足にスリスリ。
「んんんなああああ」
「まだお昼にもなっていないのよ、トロちゃん」
「んんなあああ」
「朝ご飯いっぱい食べたんでしょ」
「んんんなああああ」

すると、おつうが来て
「ギャオ!」
これは「トロがおやつならアタイにもくれ!」と言っているのです。
それを無視していると
「んんなあ・・・・」
「ギャオー! 」

うるさいので、花カツオを数枚ずつ、ひらひらとあげます。 ニボシや、かにかまスライスや、猫缶一口ずつの場合もあります。

なんだかんだで、もうお昼。 レンジでチンだけの昼食を用意して、坐ると、すかさずレオが来て膝に乗り、 丸くなってしまいます。 食べ終わっても動けない私は、そのまま座椅子を倒してつい昼寝・・・

ねこ達に囲まれた日々。
ねこ達を相手にして毎日が過ぎていきます・・・

みけ