悪戯帖 その3
掃除機にゃんか怖くにゃい!
夏になると、ねこ達が、あちこちに“落ちている”。 畳の上にゴロリ。 板の間の床にゴロリ。 お腹丸出し、緊張のかけらもない様子で、ゴロゴロ転がっている。
でも、そんな暑い最中でさえ、人間は掃除しなければならぬ。 ネコの大嫌いな掃除機をかけなければならぬ。
掃除機を出すと、みけやおつうは見ただけで逃げ出す。 掃除機が大嫌いなのだ。 チャトランやビクは、嫌そうな顔をし、 掃除機が近づいてくるとのっそりと歩み去ってしまう。 そう、世のほとんどのネコは、掃除機が嫌いだ。
しかし、トロだけは違う。
全然、逃げようとしない。 どた~~と畳の上にひっくり返ったまま、 すぐ横でガーガー掃除していても、そのまま寝ている。
試しにヘッドの先でつついてみる。 起きない。 ヘッドを抜いて、丸い筒先で、そっとシッポの先を吸ってみる。 (もち、弱に落としてね) 起きない。 少しずつ奥まで、ついには、シッポの根本まで吸い込んでやる。 それでも、起きない。
今度は、後ろ足を吸ってみる。 起きない。 かかとまですっぽり吸ってみる。 それでも、起きない。
いや、いくらなんでも目は覚ましているのだが どたりと転がったまま、起きあがろうとしないのだ。
そこで、作戦変更。 ブラシ付きの小ノズルに付け替えて、 トロの体に直接ゴシゴシ掃除機をかけてみた。 今度こそまいったか!
すると、トロたん、
「うなあ?」
と薄目をあけ、
それからゴロゴロ言い出した!
え、気持ちいいの?
困ったことに、それ以来、癖になってしまった。
私が掃除機をかけると、かけている先にドタリと転がる。
そして、こちらを見ながら、
「うなあ」
と催促。
仕方ないから、ノズルをつけかえて、ブラッシング、ならぬ ソウジキングしてあげる。 やれやれ。
洗濯機はやっぱり怖いニャン!
うちは、田舎のぼろ家なので、排水設備も貧弱。 だから、せめて貴重な水資源に負担をかけないように、 洗濯には純度99%という石けんを使っている。 少々高いけれど、仕方がない。 合成洗剤は、よほど汚れたときにだけ使う。
石けんの欠点は、お湯にとかさないといけないということ。 だから、まず洗濯槽に水を張り、それから洗濯機を回しながら お湯に溶かした石けん水を洗濯機に入れる。
トロが洗濯機のふちに登ってきた。 すでに水が満タンで、ごうごうと回っている。 回転する衣類が面白いのだろう、 トロは飽きずにのぞき込んでいる。 私は隣で石けんをお湯に溶かしていた。
トロが腰をフリフリしはじめた。
「あ、トロちゃん、落ちないでね」
という間もなく、
トロが渦の真ん中に頭からダイブした!
とっさにトロのシッポをひっつかんで、 洗濯機からひきずりだした私。
「回っている洗濯物にじゃれる子がありますか!!!! 危険でしょ!! 死んじゃうでしょっ!!」
洗濯物と一緒に2回転くらいきりもみしてしまったトロ。 さすがにビックリしたらしい。 シュンとして私にしがみついていた。
トロが、まだ幼い頃の話である。