ファイル1:血塗られた口元の謎

名探偵・麗尾智美矢五郎(レオち みゃごろう)の事件簿シリーズ

どんよりと曇った空が肌寒い、まだ早春の朝だった。

通行人みけは、あれ?と思った。 畳の上に、梅の花びらが落ちていたからである。

ほんのりピンクの、5枚の花びらが、ここ、そこに、点々と落ちている。 庭には梅の木はないし、家の中には梅の活け花もない。 一体どこから落ちた梅の花なのか?

そのとき、男が現れた。 まだ若い。

でかい男である。 その風体が、どうも怪しい。 キョロキョロと落ち着きなく、あたりを見回している。

と、次の瞬間、通行人みけは、ハッと身構えた。 なんと、その男の手が、肘の上まで赤く血塗られているではないか! のみならず、 その男の口の周りにも、血糊がべったりと付いている!

「ギャーッ」
通行人みけの悲鳴に、怪しい男は、慌てて逃げ出した。

早速、事の次第が報告された。 どうも不気味な事件である。 あの男の血塗られた口元は、何を意味するのか? 善良な市民の誰かが、殺されてしまったのだろうか? しかし犠牲者は、まだ発見されていない。 一体何が起こったのか? あの男は誰で、犠牲者は誰なのか?

名探偵・麗尾智 美矢五郎は、早速事件究明に乗り出した。

現場の周囲をくまなく調べる。 謎の梅の花。 血塗られた口元。

突然、名探偵が鋭く叫んだ。
「コレは何だ!?」

その手には、ズタボロにされた朱肉が乗っていた。

名探偵は、にこりと笑うと、集まっている者達に向かって言った。
「事件は解決しました。もうご安心ください」
「どういうことですか」

「まず、梅の花ですが」と、名探偵。
「この朱肉を踏んで、畳の上を歩くと、 梅の花型の足跡が付きます。 それを、慌てた目撃者が、本物の梅の花と間違えたのです。」

「あらやだ」と、目撃者のみけ。

「それから、怪しい男の血塗られた口元の謎ですが。」

「はい」と、ここで全員、ゴクリと唾を飲み込む。

「男は、この朱肉にじゃれて遊んでいたのです。」と 、名探偵は、引き裂かれた朱肉を高々と差し上げた。
「この朱肉を転がしたり、朱肉に噛みついたりしたときに、 色が移って、血塗られたように見えたのでしょう。 これは殺人事件ではありません。 朱肉じゃれじゃれ事件です。」

皆の口からため息がもれた。

「で、その犯人は」

「朱肉にじゃれて遊ぶような大男なんて、一人しかいません。 怪猫トロ面相の奴に決まっています。 早速、奴を捕まえてやろうではありませんか。 トロ面相は、きっとこの時間は、台所に隠れているでしょう」

名探偵はそういって、台所に行った。 果たして、トロ面相は、コーンフレークを盗み食いしようと、 その箱と格闘している最中だった。

「トロ面相、ご用だ! 朱肉にじゃれて遊んだのはお前だな! 白状しろ」

「そんな事はしていねえ!」

「何を!その顔が何よりの証拠だ!」

「う゛っ」

トロ面相は、しまったと思ったが、もう遅かった。 だって、この顔だもん。 じゃん、じゃん。

トロ面相

 怪猫トロ面相

 名探偵・麗尾智 美矢五郎

*この麗尾智 美矢五郎シリーズは、実際にあった話を 思い切り脚色して書いています。