ヘビ騒動

団塊の世代が一斉に定年退職を迎えるそうだ。 働きづめだった彼らは、田舎生活に対する憧れが強いと言われている。 「物価の安い田舎でのんびり、できれば自給自足の生活」 なんてことを夢見ている人が多いと言われ、過疎に悩む地方は 移住者の呼び込みに必死になっている。

が、実際に都会のど真ん中から超高齢化・超過疎地のど真ん中に 引っ越した私の実体験から言えば、

田舎の物価は高い! (普通の牛乳1リットル260円とか) 都会の方が生活費ははるかに安くて済む。

それに農作業って重労働! 農村生まれの若者でさえ、農家を嫌って逃げ出すほどだ。

また、自然が豊かということは、生き物も豊かということである。 タヌキやリスが庭先を走るくらいならかわいいけど、 日本の里山には、 可愛くない生き物もわんさと住んでいる。むしろそっちの方が多い。 オオムカデ、ヤスデ、カメムシやクモ、巨大な蛾、見たこともない虫たち。 どいつもこいつも遠慮無く家の中にはいってきては、我が物顔に這い回る。

虫だけではない。 カエルが跳ねていたり、ヤモリが這っていたり。
さらにまれにはヘビも入ってくる。

田舎暮らしをしたいなら、ヘビの1匹や2匹は覚悟しておかないといけない。

台所で、猫たちが騒いでいた。 その騒ぎ方が尋常ではない。

何かの生物が進入したなと直感して、ひょいと見て、ぎょっとした。

マムシ!
だんだら模様の、猛毒の持ち主!

さいわいそれは、ちっぽけな奴だった。 全長20cm未満ってところだろうか。

猫たちは、相手が小さいから、すっかり強気である。 平気で猫パンチしようとしている。

やめろ! マムシは跳ぶぞ!(注)。 猫たちがあぶない!

(注)マムシはとぐろを巻いて威嚇し、攻撃するときは全長の3分の2くらいを さっとのばしてぱっと咬みつきます。それがまるで跳んでいるように見えるということです。 マムシがカンガルーのようにぴょんぴょんジャンプするという意味ではありません。

相手がマムシでは、私もつかむわけにはいかない。 小さくても毒蛇は毒蛇だ。 このサイズでは人を殺すほどの毒量はないけれど もし噛まれたらただでは済まない。

どうしよう!!

菜箸でつまむか? (料理用)トングの方がつかみやすいかも! でもトングは短い・・!

マムシは牙をむいて怒っている。 猫たちは取り囲んで騒いでいる。 ぐずぐずしてはいられない。 ええい、ままよ。

料理用トングでマムシをつかむ!

そのまま玄関へ急ぐ。 追ってくる猫たちを蹴散らして外に出た。

庭で、あらためてヘビを見た。

田舎にヘビは多いけど、こんなに小さなヘビは滅多にお目にかかれない。 生まれてまだ間もないヘビではないだろうか。 頭がつるりと細くて、体も細長くて・・・

あれえ? 本当にマムシ?

色模様を見てとっさにマムシだと思ったのだが。

マムシにしては頭の形がそれっぽくない。 マムシの頭って三角型で首がくびれているよね。 それにマムシは日本に生息するヘビの中では一番ずんぐり、ずんどう体型だ。 この小ヘビ、シッポが長くてやけにスマートじゃないの?

そこでやっと思いあたった。 マムシじゃない。 アオダイショウの幼蛇(ようだ)だ♪

と、ここで“♪”がでちゃうのは、マムシは毒蛇だが、 アオダイショウは無毒だからである 。

アオダイショウといえば日本に生息する最大のヘビである。 名前の通り、青黒い個体がほとんどだが、生まれて間もない幼蛇は 親とは似ても似つかぬ「灰褐色に横班模様」。 しばしばマムシと見間違われる。 マムシの擬態とか言われているらしい。

と、そこまでは本の知識で知っていたものの、実物を見るのは初めてである。

アオダイショウとわかれば怖くはない。 いや、無毒とてアオの成蛇は恐いが、赤ちゃんヘビなら怖くはない。

しげしげと眺めると、赤ちゃんは身をくねらせて逃げようとする。

なんだかかわいそうになって、少し歩いて裏山に放した。 幼蛇はぐったりした様子でのろのろと這っていった。 のろいけど、おもいきりS字の這い方。やっぱりアオダイショウだね。 まだ赤ちゃんなのに、多数の猫たちに囲まれて猫パンチされたあげく 人間に料理用トングで挟まれては、さぞびっくりしただろう。 アオダイショウは気持ち悪いから嫌いだけど、あんな幼蛇ならかわいいかも。

それに何と言っても、アオならもし誰か噛まれていたとしても大丈夫だ。 よかったよかった。

すっかり安心して家に戻ったが、さて、田舎に住んでいる以上、 ヘビが再び侵入する可能性はある。 今回はあんな幼蛇だったからよかったものの、 なが~いニョロっとしたのが来たらどうしよう? 料理用トングではつかめないぞ。

ホームセンターに行って物色した。 ヘビつかみなんて、田舎でも売っていない。 なんとか工夫するしかない。

料理用トングでうまくつかめたので、その案を発展させることにした。

バーベキュー用の長いトングを購入。 さらに、挟む部分に、ウレタンを貼った。 ヘビのウロコに鉄製のトングでは滑る可能性がある。 ウレタンは滑り止め、兼、ヘビを傷つけないためのクッションである。 ウレタンとは実はドアに貼る隙間テープを切ったものである。

ヘビ捕獲用

  
↑ バーベキュー用トングの長いタイプ

蛇捕獲用

↑けっこうギザギザで、これでギュッと挟んだら痛いかも?というわけで 戸の隙間テープを切って貼って滑り止め兼クッションに。

さて、ヘビ掴みを作ったものの、なかなか活躍の機会はなかった。 ない方がありがたいので、ヘビ掴みを作ったことさえ半ば忘れていた。

春の雨が降り注ぐある日。

玄関を開け、手を伸ばして新聞を取り、戸を閉めようとして、何かが引っかかった。

見たらヘビだった。 しかも今度は長~~い奴!

うちの玄関は、サザエさんのマンガに出てくるような、古いタイプの引き戸である。 ピッタリ閉めてあるときは隙間はないが、あけると戸と戸の間に隙間が空く。 たまたま玄関先にいたヘビがその隙間に落ち込むように挟まってしまったのだ。

↓真上から見た図

引き戸

幸い猫たちはまだ気づいていない。 トロを除き!

トロは、起きている時はしばしばそうするように、その日も私の後追いをしていた。

「にゃが~い紐が動いてりゅ~! じゃれるニャ!」
と、無思慮にホイと手を出す。

やめて~!!

今回のヘビはシマヘビである。 これも無毒なので、噛まれても死ぬことはない。 死ぬことはないけど、ヘビと格闘は絶対にして欲しくないのである。

まっさきにトロをつかむと、洗面所に放り込んだ。 他の猫たちも来ないように部屋の戸をすべて閉めた。

そして、ほこりにまみれた「ヘビ掴み」を取り出したが・・・

なんて長いシマヘビだ。 今まで見た中で一番長いかもしれないくらいに長い。

これだけ長いと、バーベキュー用トングなんかでは手に負えない。 頭をつかんだところで、ありあまったシッポがニュル~とからみついてきたらどうする?いやいや、しっぽならかみついてこないから、素手で握っても別にかまわないのだったっけ。

しかし、放っても置けないし、なにより「自家製へび掴みトング」の使い勝手を確かめたかったので、トングでシマヘビの首を挟んでみた。ちなみに、 シマヘビはこの間ずっと戸に挟まったままである。

すると、トングで首を挟まれたシマヘビが、

「困った」
と、言った。

もちろん、人語を話した訳ではない。 ヘビの表情が、すごく困った顔になったのだ。

ヘビに表情なんてないと思っていた。 それが、こんなにあきらさまに困った顔になるなんて。 可笑しくて笑ってしまう。 (シマヘビなので余裕なのだ。) すごい発見だ。

トングの掴み具合はバッチリだった。 しっかり挟んで、滑らない。 私の「ヘビ掴み」は成功だったようだ。

が、そのままではどうしようもないので、 一度つかんだシマヘビの首を放し、 戸をもう少し開けて、体が通れるようにしてやった。

すると、シマヘビはまた見て分かるほどの
「よかったオーラ」
を出しながら、優雅にすいっと土間に滑り降りた。

あわてて傘の先で、進行方向を誘導してやる。 シマヘビはおとなしく、土間の形状通りに四角くまわっていく。 土間の中でユーターンした形だ。 玄関を開けて外に誘い出す。 戸口の段差で少々手こずったけど、傘に追い立てられ、シマヘビは外に出た。

いそいで玄関の戸をぴしゃりと閉めた。 これでまあ大丈夫。

それにしてもシマヘビでよかった。 あれが暴れん坊のアオダイショウなら、あんなにうまく誘導されたかどうか。 ましてマムシなら、もう、どうして良いか分からない。

とりあえず、ヘビ掴みをもう1本用意すべきだろう。 1本だけではあんな長い奴には対応できない。 それから、古いスキー手袋。あれも出しておこう。 丈夫な皮だし、分厚いから、軍手なんかより防御用に優れているだろう。 あと網も必要かな? ヘビ用の網なんてあるかな?侵入してくるのはヘビだけじゃないしな?

猫のいる部屋にヘビが侵入した経験のある方がいらっしゃいましたら、そしてもし、良い対策をご存じでしたら、ぜひ教えてください。

【注意!】
上記ではアオダイショウやシマヘビをトングで挟んでいますが、 アオダイショウはとても気の荒いヘビと言われています。 また、シマヘビは野外で人の姿を見た場合は逃げ出すが、 もし捕まった場合は「だいたい咬みつく」と有名爬虫類サイトに書いてありました。 どうしてもやむを得ない場合をのぞき、ヘビさんはそっとしておいてあげてください。

*こちらでヘビ咬傷について少し説明しています。
同居の工夫 の中の ヘビに対面しちゃったら? のページ

トロ