真夜中の恐怖体験

我が家は、台帳によると、70年以上前に立てられた古民家である。 近所の人の話では、どうも実際はもっと古いらしい。 使われている柱や梁にしても、昔は古い家屋を解体しては使い回してたようだから ひとつひとつの材料を問いただしたら、 いったいいつの時代の物か、わかったものではない。

数年前にこの家を買って引っ越してきたばかりの私には 昔々、この家で起こった出来事など、もちろん調べようがないのである。 この、古い古い家に、いったいどんな人たちが住んで、 いったい何人この家の中で死んでいったか、見当も付かないのである。 この柱にしみついているかも知れない、昔の人の恨み。 この梁に閉じこめられているかも知れない、恐ろしい怨念。 何があっても不思議でない古さ。

・・・・・

ある、寒い夜中。 月も出ていない真っ暗な晩。 世に言う丑三つ時。

・・・どーん

どーん

どーん

夜のしじまを破って、 不気味なラップ音が鳴り響く。 古い屋敷には付き物の幽霊話。 ついに来たか?>

そのうちに、

ギ、ギ、ギィー・・・

と、戸がきしみ・・

突然、

バッターン!

私の真上に巨大な物が落ちた来た!!! と、同時に!!!!!

「うっなぁおおおお~~~んんっ」

ああ、身の毛もよだつような不気味な叫び!

ドダダダダーッ

正体不明の何物かが畳を走り回る! さらに、 恐怖で凍り付いた私のほほを、濡れて冷たい指先が

ピチャッ

そして、生臭~い息が

「はぁ~~~」

鋭い牙が私の頬肉に突き刺さり・・・・・・

「ぎゃぁあああ!」

あわや乙女の命は化け物に吸い取られ・・・!!!

暗闇の中に光るハナの目

.

.

なーんてね。

いくら脚色して書いてみせたって、 皆様、もう、おわかりでしょ。 はいはい、実態は。

なぜかうっかり寝室から閉め出されたトロが

どーん どーん どーん

と、ふすまに体当たり。

ついに溝からはずれたふすまが、寝ている私の上に落ちてきて、

バッターン!

「開いたにゃ~ん♪」
と、トロの勝利の雄叫び!

と、同時に、 倒れたふすまに驚いた他のねこ達が、

どだだだー

と、走り回る。

喜んで入ってきたトロは、冷たい濡れた鼻先を 私のほほに

ピチャッ

と、くっつけて

「マッマ~~♪」

甘える時のくせで私の顔を甘噛み。 その、あまりに嬉しそうな顔に 乙女、否、オバサンはつい怒る気にもなれず

・・・・・

え、ずぼらするなって? 改行と行間空けで、スペースを引き延ばしているだけで、 書いている内容なんて、詰めて書けばほんの数行・・・

いやいや、これは、引き延ばして書いた方が 恐怖感が増すかな、と。 だってね、だってね、真夜中に、寝ている真上にふすまが倒れてきたら それなりに怖いですよ。

え、慣れているだろうって? そういわれると困るなあ・・・

なら、もうひとつの恐怖体験。 こんな夜を過ごせば誰だって怖いこと間違いなし。

その日、私は強い頭痛に悩まされていた。 そこで、いつもより早く布団に入ったのである。

レオが、すぐにやってきて、私の頬をお手手でちょんちょん。
「ママ、布団よりもさ、ストーブの横で抱っこ」 と言っているらしい。
「頭痛いから寝るわ」 と相手ししないでいると、不満そうに「にゃっ」と言い捨てて あちらへ行ってしまった。

トロがやってきて
「入れて~」
右側の布団を持ち上げてやると、のぞき込んだまま考えている。
「あ、君は左側が好きだったのよね」
左側を持ち上げると、喜んで潜り込んで、
「うな~~~」となでなでの催促。
「はいはい、撫でれば良いんでしょ」
なでないとトロは噛んで催促するので、仕方なく、なでなで。

今度はみけが来る。 これも耳元で
「にゃああ」
右側の布団を持ち上げていれてやる。 みけは、すぐに潜り込んで、私の脇腹でモミモミ。
「爪が痛いんだけどなあ。止めて欲しいなあ」
「にゃああ」
止めない。

「うな~~」 手が止まったよ、もっとなでなで~、と、トロが催促。

おつうが来て 「ぎゃお!」
「あんたも入りたいの。さっさと入って」
「ぎゃおん」
みけの横の潜り込むと、私の右手をザーリザーリザーリザーリ。
「なめてくれなくていいんだけど。痛いから止めて」 それでもしつこく、ザーリザーリ。

「んなあ~~~」 手が止まったよ、と、またトロが催促。

「にゃお!にゃお!」 レオがやってきて、耳元で鋭く鳴く。
「だから、ママはもう寝るの。ストーブの横で抱っこは明日ね」
「にゃお!」 不満な声を一声残して、レオは足元にうずくまる。

「んなぁ~~~」 トロが待ちきれなくなって、私の左頬を甘噛み。
「わかったわよ、なでればいいんでしょ」

その間に、おつうに押されたみけが、私の股間に入ろうとしている。 実はその日はお月様の日で、だから頭痛がしていたのだ。 いくらおばさん化した私でも、その期間はあまり股間に猫を入れたくない。
「今日はダメよぅ」
「にゃおん!にゃおん!」やだ、股間で寝るぅ! みけはなんとか潜り込もうとする。

「んなぁ~~~」 手が止まるとたちまちトロの催促。

突然、頭の上をちびまる太がダダダッと駆け抜ける。 追いかけて来たチャトランは私の頭を踏んづけていく。 チャトランは4.5キロあるから、蹴飛ばされるとけっこう痛い。

「んなぁ~~~」
トロが伸び上がって私の口をなめて催促。
一方、みけはまだ
「股間、股間!」とやっている。

ビクがやってきて、右側に潜り込む。
代わりにでてきたおつうが、今度は私の耳をなめはじめる。
「くすぐったいから止めてってば」
おつうは思い切り喉を鳴らしながら、耳の横に寝そべる。
ゴロゴロゴロゴロ、頭痛の頭にうるさい。

「にゃあ!」
またまたレオだ。諦めの悪い猫だ。
お手手で私の頭やおでこを、ちょん、ちょん。
「レオ、布団で一緒に寝よ」
「にゃっ!」
どうしてもストーブで抱っこがあきらめられないらしい。

と、追いかけっこ2週目のちびまる太とチャトランが、
今度はチャトランが逃げ役、ちびまる太が追いかけ役で走ってくる。
布団の下のビクを踏んでいったから、ビクが布団から飛び出す。
驚いたみけも飛び出す。

が、ビクとみけ、すぐにまた私の耳元に来て
「にゃあ」
布団をめくってビクとみけを入れてあげる。

猫団子

「んなあ~~~」
またこいつが起きちゃった。
「トロ、もういい加減にしてよ」
「んなぁあ~~~」
「もう」
なでなでなで。

ようやくうとうとし始めた頃、
「ワン!ワン!ワン!」と玄関先のラムの大声。
飛び出していくレオ、トロ、おつう、ビク。
庭先をタヌキかなんかが横切ったらしい。
やがて、なにやら言いながら、皆また戻ってきて
「にゃん」
「ぎゃお」
「うな~」
(布団にいれて)

一方、レオは、耳元で
「にゃあ、にゃあ、にゃあ、にゃあ」
今の事件の報告らしい。
「レオちゃん、わかったから、布団で一緒に寝ようね」
「にゅあ!(何言ってるの!ボク心配だからもう一度パトロールに行ってくる)」
と、とことこ行ってしまう。

ごそごそと潜りこんだトロがまた
「うなぁ~~」
今のでスッカリ目が覚めてしまったから、またなでなでしてほしいらしい。
みけとビクも、私の脇腹でモミモミちゅぱちゅぱ。
ダブルで痛い。
そして今度はおつうが
「股間、股間」
と潜り込もうとする。

チャトランも眠くなったらしい。
よっこらしょ、と、私の胸に登って、グルーミングを始めた。
目の前にチャトランの肛○が。そして、ほのかな香り。
「チャトラン、あんた、たった今ウンコしてきたでしょ~」
どんなに健康なウンでも、出したては、かぐわしい残り香が。
念のため電気を付けて肛○チェック。付いていたら困るからね。

「うなぁ~~」
またトロだ。 うっるさいなあ。
「うなぁ~~~。うなぁ~~~」
私の口のまわりをなめながらトロが催促。 なでてやるまで、なめるのを止めないから、なでるしかない。

ちびまる太もチャトランの隣に登って丸くなる。 4.5キロ+5.5キロでちょうど10キロの重さが胸にのしかかる。

ここで枕元の時計を見ると、夜中の1時半。 ええ~、11時半に布団にはいったんだぞ。

「にゃっ!」
やっとレオも布団にもぐる気になったらしい。 が、お気に入りの、私の右側におつうがいる。
「にゃぁ!」
「ぎゃお!」
びしびしとネコパンチが飛んで、おつうはレオに席を譲る。 レオはいつも通り、モミモミモミモミ・・・・ あのね、君のは特に痛いんだけど。

おつうは私の首に巻き付くように寝そべる。 う、息ができない。 口を開けると、おつうの毛が口の中に。
「おつうちゃん、もうちょっと上にいって」
「ぎゃお(やだ)」
「毛が口にはいるから。おつうの毛を食べたくないから」
「ぎゃお(やだ)」

「うなぁ~~~」
しまった、またトロが目を覚ましちゃった。 っんとに、うるさくてしつこい奴だ。 なでなでなで。

・・・・・・

あ~あ、私はいったい何時になったら眠れるの?