レオはクロに恋した

レオを拾ったとき、うちには他に猫はいませんでした。 いたのは、ジャンガリアンハムスターが確か18匹と、ゴールデンハムスターが1匹、 キャンベルハムスターが1匹、シマリスが2匹(今も健在などんぐりとくるみです) それから、故うさ、故クロ、フー、ミーのウサギたちでした。 (ペット禁のマンションでこんなに飼っていたの・・・内緒!)

ハムスターたち

レオはまだ子猫でした。 生後推定3ヶ月未満。 多分飼い猫の子だろうと思います。

痩せてはいましたが、毛皮は比較的綺麗でしたし、よく人慣れしていました。 それに、とても大人しい子猫でした。 運動量は今年保護した茶々姫の半分以下、下手すると 3分の1以下だったのではないでしょうか。 (茶々姫はとびきり元気な子ですけれど)。

トロ、みけ、子猫(茶々姫)

レオは、自分が捨てられたということをよく知っているような子猫でした。 子猫のくせに、みょうに気を使うような所がありました。 もう2度と捨てられたくない、絶対に捨てられたくない・・・・ そう幼心に強く深く決心しているかのような子でした。

そのせいか、ネコとは思えないほど、言いつけに忠実でした。 ハムスター達を虐めてはいけないのだと教えられると その後は決して手を出さなくなりました。 ウサギ達ともすぐに仲良くなりました。 ネコとしての狩猟本能よりも、もっとずっと強く、 捨てられたくない気持ちの方が強かったようです。
「ボク、良い子にしてるよ。だからずっとここに置いてね。
ボクを捨てないでね」」
いつもそう言っているような子でした。 いじらしい子猫でした。

レオがうちに来て数ヶ月が平和に過ぎました。 小さな子猫は、みるみる成長しました。 健康で立派な雄猫に育っていきました。

やがて、レオも思春期を迎え・・・

その頃から、レオの様子がおかしくなったのです。

どうやらレオは恋をしてしまったようでした。 相手は、ネコではありません。 ネコはレオしかいなかったのですから。

レオの初恋の相手とは、意外にも、ウサギのクロちゃんでした。

レオは、我が家の‘中型動物’では紅一点だった ウサギのクロちゃんに恋してしまったのです。

レオにしてみれば、自分とほぼ同じ大きさ動物といえば、 当時はウサギしかいませんでした。 だからウサギこそ、仲間だと思ってしまったのかも知れません。 人間はいくらなんでも大きすぎますし、ハムスター達は小さすぎます。 ウサギだけが中猫のレオと釣り合う大きさだったです。

とはいうものの、 純草食動物のウサギと、そのウサギをさえ捕食する純肉食動物のネコ。 いくら一緒の家の中で仲良く暮らしているからと言って、 まさか恋仲になろうとは私の予測の範囲を超えていました。

が、それは確かに恋でした。 レオはクロちゃんに夢中になってしまったのです。

猫とウサギ

うちにはそのころ3羽の雄ウサギがいました。 クロちゃんの夫ウサと、息子達、フーとミーです。 けれども彼らは全員去勢手術済みでした。

しかし、雌ウサギのクロちゃんは避妊手術はしていませんでした。(注) 立派に“女”でした。 種を越えて成熟した女の香がただようほどに魅惑的な女ウサギだったようです。 青年レオはその色香に迷ってしまったのでした。 クロちゃんしかいなかったのですから、レオがクロちゃんに恋するのは、 ごく自然な成り行きだったのかもしれません。 少なくとも、レオにしてみれば、それが当たり前の出来事のようでした。

一方のクロちゃんの心理は私にはわかりません。 雄ウサギがいないならともかく、夫のウサがちゃんといたのですから。 なぜレオを受け入れる気になったのか不思議です。

その理由を私なりに色々考えては見ました。 レオはまだ子猫からやっと中猫と呼べるような体に育った頃でしたけれど さすがは肉食獣、 雄ウサギたちよりも強く、身のこなしも敏捷です。 そんなレオが、クロちゃんには頼もしい男性ナンバー1に見えたのかも知れません。 また、唯一の未去勢雄であったため、アプローチも積極的で それでクロちゃんがなびいてしまったのかもしれません。 クロちゃんはしゃべってくれませんから、いくら私が考えても心の中まではわかりません。 ただわかるのは、レオとクロが非常に仲良くなってしまったということだけでした。

その間にも、レオはどんどん成長していきました。 そしていつの間にか一人前の雄猫になっていました。

ある日。 ・・・・・・

レオがクロにまたがっているのを発見しました。

それは交尾のまねごとというより、すでに本格的な交尾でした。 レオは実に真剣な顔をしていましたし クロは神妙にレオを受け入れていました。

そして、信じられないことが起こりました。

いえ、ネコとウサギの合いの子が生まれたわけではありません。 もし生まれたらそれこそ世界中の新聞の第一面を飾るような大事件になってしまいます。 が、それに近い事がおこったのです。

クロがなんと想像妊娠してしまったのです。 (生物学では偽妊娠といいます)

ご存じのように、犬や人間と違い、ネコに生理はありません。 人間は自然排卵しますが、雌猫は、交尾の刺激があってはじめて 排卵します。 そして、ネコ以外で交尾排卵する身近な動物といえば、 他ならぬ ウサギだったのです。

たまたまそのネコとウサギが、うちに仲良く同居していたのでした。 仲良かっただけでなく、ついに交尾の真似事をしてしまったのです。 ウサギという動物はとても偽妊娠しやすい動物です。 ほんの少しの刺激で偽妊娠してしまいます。

クロちゃんが偽妊娠しちゃったのは、仕方のないことでした。

クロちゃんは次第に神経質になりました。 そわそわと落ち着き無く、明らかにいつもと違いました。 私は暗い巣箱を用意してあげました。 するとクロちゃんは中にはいって、お腹の毛を抜いて産床を作り始めました。 お乳も赤く大きくなりました。 まさに出産の準備でした。

が、・・・

クロちゃんがいくらレオと仲良くても、生まれるはずはないんです。 生まれたらリンネ以来の生物学が根元からひっくり返ってしまいます。

ある日、クロちゃんは‘流産’しました。 つまり、未受精の卵子を体外に排出しました。 要は人間の生理と同じです。 経血が見られ、そして・・・

クロちゃんは偽妊娠前の、いつものクロちゃんに戻りました。 せっかく作った産床を「なにこれ?」と蹴散らし 何事もなかったかのようにボリボリとラビットフードを食べ始めたのです。

しかし、ウサギって本当に偽妊娠しやすいんです。

レオとクロはその後も仲が良く、 しばらくすると、クロはまた偽妊娠してしまいました。

こうして、クロは2回も偽妊娠しました。

猫とウサギ

レオがうちに来て8ヶ月経ったとき、レオの去勢手術をしました。 もともと手術はする予定でしたし、それに、クロちゃんが 何回も偽妊娠するのは可哀想でもありました。

手術後、レオはクロちゃんと交尾しなくなりました。 そしてクロちゃんの偽妊娠騒動もそれきり見られなくなりました。

レオとクロの恋はこうして終わってしまいましたけれど レオのあの行為は残りました。 今ではレオの相手は、もっぱら私です。 正確には、私の左足です。 時々、寝ている私の左足にまたがり、腰を振り始めます。
「そんなにママが好きなのね~~~♪」と
非常に可愛く思う反面、ちょっと複雑でもあります。

だって、うちには、避妊手術済みとはいえ、 チャトラン、ビク、みけ、おつうと女の子が4ニャンもいるのよ? どうしてウサギとヒトが行為の対象なの、レオ?

【注】
ウサギは非常に麻酔に弱い動物だそうです。 しかも麻酔中でも体、特に後肢がよく動きます。 その為、去勢手術はしてくれても、開腹手術となる避妊手術は嫌がる獣医さんが多く、 クロも未手術でした。

レオ