こうして、トロは、うちの子になりました

生後推定10日くらいの、ノラネコの子猫達を保護しました。 まだ手のひらにすっぽり収まるような、小さな小さな子猫達でした。

その中に1ニャンだけ、頭が手のひらから、はみだしてしまう子がいました。 手足も、他の子猫達に比べると、倍くらい、ぶっといのです。

その上、他の子猫達は、幼いながらも、重大な運命の分かれ時だと察したのでしょう、 不安そうにピーピー鳴いたり、いっちょまえに「シャー」と威嚇したりしていましたが、その子猫だけは、トロンとした顔でトロトロ寝ていたのです。

「この子は余程の大物か(まあ、でかかったのは事実ですが)、それとも単なるアホなのか?」

そこで早速、古来から伝えられている、子猫の賢愚鑑別法というのをやってみました。首の後ろの皮をつまんでぶらさげるという、アレです。

・・・お母さんネコは、首の後ろをくわえて、子猫を運びます。その時、賢い子猫は、後ろ足をキュッと縮めて、お母さんネコの負担を軽くし、また、引きずられて怪我をしないようにすると言われています。

子猫の首の後ろをそっとつまんで、持ち上げてみました。 この子の両足は、バレリーナのように、すとんと伸びたままでした。

「あらあ、トロい子ちゃんの方でしたか」

こうして、この子猫の名前が決まりました。 トロ君です。

トロの子猫時代

トロは、他の子猫達の1.5倍はミルクを飲み、よく食べ、よく寝て、元気に育ちました。でも、最初の見立て通り、とてもトロい子でした。

例えば、おもちゃを投げます。

トロは「おーし!」と喜び、「腰フリフリー!」と狙いを定め、「ダァーッシュ!」と飛びつきます。でも、他の子猫達は、トロが「おーし!」といっている間に飛びつき、「腰フリフリー!」している間におもちゃをくわえ、 「ダァーッシュ!」した頃には、もう部屋の反対側まで運んでいってしまっているのです。 おもちゃがあったはずの場所に飛びついたトロは、「あれえ?」とキョロキョロするばかりなのです。

やがて、子猫達も大きくなりましたので、里親募集の広告を出しました。 そうして、最初の里親さん候補が、うちに来ました。

私は、トロを真っ先に勧めました。
「こんなに楽しい性格のネコは他にいません」

里親さん候補は、しばらくトロの顔を眺めていましたが、首を横に振り、他の子猫を選びました。

次の里親さん候補も、やはり首を横に振り、他の子猫を選びました。 その次の里親さん候補も、同じでした。

4人目の里親さん候補が、首を横に振って帰った後、私はトロに言いました。
「どうして皆、キミの良さがわからないのでしょうね。もう、ずっとこの家にいなさい!」

こうして、トロは、うちの子になりました。

子猫時代のトロ