生涯で一番みじめな日

トロはまだ3歳です。トロのニャン生は、まだまだこれからです。 でも、今までのニャン生の中で一番みじめだった日は やはり、あの日でしょう。

偶然、その日のことを知人に書いたものが残っていますのでもう2年近く前のことですが、正確に再現できます。

その朝、トロは、見るからに変でした。 まるで元気がないのです。よく見ると、口の周りを血で汚していました。無理矢理口をこじあけて、覗き込んだら、歯茎が出血して腫れているのです。

そして、台所には、ビニール袋に入ったままのせんべいが、袋ごと、びちゃびちゃにかみ砕かれて、中のプラスチックトレーが破片となって飛びだしていたのです。どうやら、せんべいを袋やトレーごと食べようとして 、するどいトレーの端で、口の中を切ったようでした。

そのときは運悪く連休で、獣医さんへ行ったのは数日後でした。 とりあえず、飲み薬を貰って帰りました。

トロ

口の中の腫れは、一時期引いたように見えましたが、1週間くらいすると、また膨らんできてしまいました。 そのころには、傷口は見えなくなっていましたけれど、 それだけに却って中で化膿している恐れがあり、危険でした。

結局、溜まったものを出して洗浄消毒した方がよいということになりました。 人間でしたら、虫歯治療のように、簡単にできることですが ネコの口の中となりますと、やはり全身麻酔という大げさなものになります。

でも、そこはやはりトロ。 また色々やってくれました。

まず、帰りのキャリーの中で、オシッコ第1回目。 布団代わりに敷いていた古トレーナーがビショビショで、 その上に寝ていたトロもプンプン臭い。
  「今日はお風呂は無しね。」
と、蒸しタオルでトロを拭いて、それからトレーナーを洗って戻ると、トロちゃん、私のいない間に、私の座椅子の上で 思い切り吐いているのです。 爪研ぎのせいで座椅子は半シャギー状態ですから 水分吸収率のなんて良いこと。 仕方ないので座椅子を庭に出して、ホースで水をぶっかけて丸ごとザバザバ洗いました。

夕食時、他の猫たちと一緒に、トロのお皿にも少し猫缶をいれてあげると トロは、ものすごく悲しそうな顔をして、鼻先をお皿につっこんだまま、10分以上じっとしていました。 胃は空腹だけれども、口が受け付けないようなのです。その姿があまりに惨めで、かわいそうなので
  「治ったら思い切り、食べられるからね。」
と、抱きあげると
  「ウン!」
とばかりに、私のあごをガブリ。

カプッと軽く甘噛みするのは、トロのいつもの愛情表現ですが、 このときは、麻酔と口の手術との後遺症で、力の加減が狂ってますから、 ガッチリくわえたまま、離さないのです。 それをなだめすかして、手でこじあけてようやく離し、 洗面所で鏡を見ながら
  「あああ、見事に4つ穴が空いているよ・・・」
と感心していたら、・・・

私の後をヨロヨロとつけてきたトロが、 今度はバスマットの上でまた吐いてしまいました。 バスマットもすぐ洗濯機へ。

トロ

そして、その夜。布団を敷いて、寝る用意をしていると・・・

レオがニャアニャア何かを訴えに来ました。 見に行くと、私の布団の上で、トロが第2回目のオシッコ! それも、大量に! 夏の薄い掛け布団を浸み通して、敷き布団まで濡れているのです。

そして、そのシミの真ん中に、トロがこの世のものとも思えないほど情けない顔をして、ションボリと座っていたのです。
  「ママの布団に粗相しちゃったよ・・・!!」
というショックとみじめさのあまり 自分のオシッコの中で腰を抜かしているようなのです。

その、あまりに情けない顔がおかしくて、かわいくて、愛しくて、つい大声でケラケラと笑ってしまいました。
  「しょーがないよねー。麻酔かけたんだもん。 怒らないからね。大丈夫、大丈夫」

もう1組くらいなら布団はあるが、また何かされると大変なので その日は、タオルケットを体に巻いて、トロを抱いたまま畳にゴロ寝。タオルケットなら、簡単に洗えますからね。

トロは、しかし、翌日には麻酔の影響も消えて、バクバクと猫缶にくらいついていました。 幸い、傷もやがてきれいに治りました。

トロにとっては惨めな日だったに違いないだろうけれど あの顔、あの様子、あのしょげかた、 今思い出しても笑ってしまうのです。

そもそも、せんべいを袋ごと囓って口を切ったのですから まあ、あまり自慢できませんよね?トロたん。

トロ