チャトランという猫

猫

うち中で一番うるさいのが、チャトランである。

7ニャンだけでも抜け毛がすごいのに、それにくわえてウサギが2羽。

このウサギの抜け毛というものは、ネコの比でないくらいにものすごい。 ネコの抜け毛は数本ずつ抜けていく感じだが、抜け毛シーズン中のウサギの毛は タバのままごっそりと抜け落ちる。 寒椿の花が花形のままぽとりと落ちるのと同じである。 まるで刷毛の頭だ。

その刷毛の頭があちこちにぼとり、ぼとりと落ちている室内をイメージしていただきたい。 しかも、このウサギの綿毛、ふわっふわで軽いのである。 そよとでも空気が動けば、刷毛の頭はたちまち風に舞う。 理の当然としてネコがじゃれつく、バシバシたたいて粉砕する。

さらに、抜け毛率ではネコ・ウサギに劣るものの、イヌ・シマリス・ヒトも同居している。

となれば毎日の日課に欠かせないのが、コロコロ(粘着テープ)である。 春は一日1ロール以上使う。

・・・と私が言うと、皆「ウソォ」と仰るが、こんなことでウソをついても始まらない。 本当に1日1ロールは軽く消費する。

服にコロコロ、座椅子にコロコロ、布団にコロコロ、バッグにコロコロ。

毛布にコロコロ、カーテンにコロコロ、バスタオルにコロコロ、コタツ布団にコロコロ。

着た物、これから着る物、置いてある物、動かせない物。 布系の物はすべからくコロコロが必要となる。

チャトラン

で、ここでやっと冒頭の1行に結びつく。

チャトランが何より好きなのが、このコロコロなのである。

家中どこにいようと、コロコロの気配さえすれば、チャトランは駆け寄ってくる。 そして、ニャン♪、ニャン♪と可愛い声で鳴きながら、
「コロコロしてん」 とねだる。

一度冗談でチャトランの体に直接コロコロを転がしたら、余程気持ちよかったとみえて、 以来すっかり癖になってしまったのだ。

ニャン♪、ニャン♪、ニャン♪、ニャン♪、と、うるさく催促しながら、 顔を見上げお尻を突き出して
「コロコロしてん」
たった今コロコロかけて綺麗にしたばかりの黒いスーツの上に転がって
「コロコロしてん」
私の足を甘噛みし、私の腰まで伸び上がって
「コロコロしてん」
それでも無視すると、肩に飛び乗って耳元に熱い息を吹きかけ
「コロコロしてん」

そう、チャトランはコロコロフェチなのだ。

チャトラン

さらに、撫でられフェチでもある。

とにかく、撫でられるのが大好き。
「ニャン♪、ニャン♪、ニャン♪、ニャン♪」 と、絶え間なく鳴きながら、人の顔を見上げては撫で撫での催促。 その催促が、毎日数時間も続く。 撫でてあげないと、背中に飛び乗ったり、肩に飛びついたり、 新聞の上でゴロンゴロンしたり、飲んでいるコーヒーにお手々を突っ込んだり。 あらゆる手段を尽くして、なんとか撫でて貰おうとする。 もう、うるさいのなんの。

同じ甘えん坊でも、レオのように、じっと膝に丸まったまま 何時間でも大人しく乗っているようなタイプは、あまり邪魔ではない。 また、トロのように、時々発作的に猛烈に甘えるが、 20分ほどで発作が収まってしまうタイプも、まあそれほど邪魔ではない。

チャトランの場合は、しつこい・長い・じっとしていない・あきらめない・ こちらの都合におかまいなしだから、うるさいのだ。

さらに 撫でている間中、ウロウロ動き回って、少しもじっとしていない。 本の上に乗ったり、パソのキーボード周辺を延々と往復したり、 飛びついたり、甘噛みしたり、舐めたり、また降りたり、 ひとときもじっとしていない。

しかもその間中
「ニャン♪ ニャン♪ ニャン♪ ニャン♪」と 可愛い声で鳴き続ける。

これでは何も出来やしない。 本当に邪魔だ。

猫好きの友人が遊びに来たことがある。

今は猫無しの生活だから、大喜びでチャトランを撫でていた。 チャトランは全身で喜び、身もだえ、のたうちまわり、舐めまくって甘えていたが・・・

うちにきて4時間後、ついに彼女が音を上げた。
「この猫なんとかしてぇ」

「撫でて♪ 撫でて♪ 撫でて♪ 撫でて♪」 と、 延々4時間も撫でさせられて、さしもの猫好きもくたくたになってしまったようだ。 4時間連続で撫でられても、チャトランは飽きるどころか、ますます興奮するばかり。
「撫でて♪ 撫でて♪ 撫でて♪ 撫でて♪」
友人の顔を見上げ、手を囓り、伸び上がって顔を舐め、髪の毛を吸い、 大騒ぎしていた。

変な猫だ。

チャトラン

当然ながら、うちの7ニャンの中で一番人なつこいのもチャトランである。 相手を選ばない。初対面の人でも、撫でてさえくれるなら 大喜びでスリスリ、ゴロゴロ、ニャンニャンニャン、 老若男女、おかまいなしである。

そして、ナデナデのお礼として 人の素肌部分を見つけてはザラザラの舌で激しく舐めてくれる。

その舐め方がまた並大抵ではない。 放っておくと、肌が真っ赤に腫れるまで、舐めて舐めて舐めまくる。 犬なら、舐めまくりの子はめずらしくないけれど、 猫でこんなに舐めまくる子は珍しい。 両手で押さえて舐めている。興奮してくると、猫キックしながら舐め出す。 こちらが撫でている間中、舐めてくれるのだ。

撫でる手を止めると、
「にゃんで止めるのぉ」とばかりに、ニャアニャア鳴いて 顔の目の前に肛門を持ってくる。
「ほらほら、臭い嗅いでもいいからン。だから撫でてン」
猫肛門の臭いなんか嗅ぎたくないんですけれど。
「だから、ね?臭い嗅いだら撫でてね?」
お尻を、ぐりぐりグリンと突きだして、短いシッポを反り返らせながら臭いを放出。
「うふん。撫でてン。撫でて、撫でて、撫でて、撫でて♪」
ここで無視したら大変だ。
「ウニャア~~~~!!!」
と追いかけてきて、足の間をクルクルまわり、 腰に手をかけ、顔を見上げ、激しく鳴きながら 「撫でてよ! 撫でてよ! 撫でてよ! 撫でてよ!」
背中に飛びつき、爪を立ててしがみつき
「撫でて、撫でて、撫でて、撫でて」
仕方なく背中から引きはがして撫でてあげると
「ニャハン♪ ニャハン♪ ニャハン♪ うれちい~~」
ペロペロ、ペロペロ、ペロペロ。

毎日これだから、私は本当に大変なのである。

チャトラン

このチャトラン、日本猫に多い、腰椎が少ないタイプだと思う。 レントゲンで確かめてみたことはないのだが、獣医さんも多分そうだろうと仰っていた。 腰高で、ぼんぼんシッポで、拾った当時は歩き方が下手だった。 ウサギのように跳ねてばかりいた。 だから悪化を恐れてうちにおいて置いたのだが、悪化するどころか、成長とともに 歩き方はすっかり普通になってしまった。 今は他の猫達と比べても全く問題はない。

が、今でもジャンプ癖は抜けない。 他の猫なら歩み寄るところを、すぐ飛びつく。 ひとっ飛びで、私の肩にもよじ登ってしまう。 薄着の季節は爪が食い込んで痛い。

腰椎が少ないせいか、体はネコにしては硬いようだ。 胴体も短いように見える。 体が硬くて短い為、お尻を舐めるのに少し苦労する。 それ以外には、特に不便はなさそうだ。

チャトランの撫でられ好きコロコロ好きが、 この短胴腰高と関係があるのか、私にはわからない。 が、腰のあたりを撫でられるのが特に好きなのは確かだ。 体が硬いから自己グルーミングに満足感を得られないのか? そうだとすると可哀想だが、しかし、それだけとも思えないのだ。 一応全身舌が届いているし、猫同士でも盛んにペロペロやりあっている。

とすると、この撫でられ好きは、幼すぎる時期に母猫から離された名残なのかもしれない。 もしそうなら、私はやはり、このナデナデ攻撃に耐えるしかない。

チャトラン