猫・ねこ・ネコ
私の個人的なこだわりかもしれないが、
・「猫」と書いた場合と、
・「ねこ」と書いた場合と、
・「ネコ」と書いた場合とでは、
明らかに受けるイメージが違うような気がする。
少なくとも、私自身は知らぬ間に使い分けている事が多い。
まず、カタカナの「ネコ」。
これは、生物学的にネコに分類された生き物、という感じがする。 イヌでも、ネズミでも、ウマでも、カエルでも、トンボでもない、 ネコという動物。 そのことを強調したい時に、私はネコとカタカナで書く。 ネコの習性、ネコの聴覚、ネコの妊娠期間、ネコのハンティング方法、などなど。 そして、ネコの対はヒトである。これもカタカナで書く。
しかし、私には、どうもネコという動物は、 呼び捨てにしては勿体ないような気がしてならないのである。 そこで、厳密に生物学的な「ネコ」以外の場合に、 しばしば私は「ネコさん」と「さん」をつけてしまう。 「今日、白いネコさんに会いました。」 これは、会ったのはイヌでもウサギでもないから、ネコとカタカナなのだが 誇り高いネコを呼び捨てにもできないので、ネコさんとなるのだ。 そして、ネコさんの対はニンゲンと、これもカタカナになる。
![トロとチャトラン](https://nekohon.jp/cats-wp/wp-content/uploads/2019/10/0702-toro-chato3.jpg)
次に、漢字で「猫」と書いた場合。
人間との絡みが出てきた場合に、私は猫と漢字で書く。 あくまで私の勝手な感傷なのだけれど 猫と書くと、かなり人間くさくなるような気がする。 たとえば、リビア砂漠の真ん中にポツンといるのは「ネコ」。 でも「猫」はそんなところには決していない、猫がいるのは 人の膝の上とか、縁側とか、屋根の上。 どうもそんなイメージなのである。
その他、漢熟語の場合も、猫のほうがしっくりくる場合が多い。 犬猫病院、子猫、成猫、猫又、猫談義、化け猫、など。 「猫に小判」「猫も杓子も」などの慣用句も、もちろん 漢字で猫でなければ様にならない。 人間との生活に密着して生まれた言葉だから。
![トロの変顔](https://nekohon.jp/cats-wp/wp-content/uploads/2019/10/0707-toro2.jpg)
そして、最後にひらがなの「ねこ」。
ああ、これこそ日本語の妙技だと思う。
ねこ。
なんて、ねこらしい字なのだろう。
まず、「ね」の字。 これはもちろん、箱座りしたネコの姿そのものだ。 背中の丸い感じ、ピンとたった耳、折り込んだ前足、しなやかなしっぽ。 すべて「ね」の一文字に表されていないか。
そして、「こ」の字。 これは、ねこをなでる時の、人の手の動きだ。 箱座りしたねこを、ゆっくりとなでる人の手。
ね、こ。
ねこ。
私が「ねこ」とひらがなで書く場合は、 そのネコに特別な感情を持っている現れである場合が多い。
その代表が、「うちのねこ」。 うちのねこは、誰がなんと言おうと、世界中で一番かわいい。 だから、ネコでも猫でもない、ねこと書いてしまう。 ねこ、と書きながら、箱座りしている背中をなでる時の手のぬくもりを感じている。 ひらがなでなければ絶対にあらわせない、柔らかで暖かいニュアンスだ。
![箱座りする猫、レオ](https://nekohon.jp/gazou/photos/0212-leo-ne.jpg)
↑「ね」の字に箱座りする猫。 この背中を「こ」の字に撫でて、 「ねこ」が完成する。
さらに、「子猫」、「仔猫」、「小猫」、「こねこ」、「コネコ」、「子ねこ」、「子ネコ」、等々・・・ いずれも少しずつ受ける感じが違う。
「子猫」は普通に、ネコの子供。もっとも一般的な言い方だ。 子犬、子馬などの熟語の他、子ライオンのようにカタカナ語についても全然違和感がない。 私も、普通は「子猫」を使う。
「仔猫」は、私の勝手な想像かもしれないが、「子猫」より幼く頼りない感じがする。 もともと「仔」という漢字には、「こ」という読み方はないらしい。 私が持っている最大の漢和辞典(大修館書店『大漢語林』13938字収録)では、 「仔」の字の読みは「シ」だけ。「仔」から始まる熟語は「仔細」しかあげられていない。 漢字の意味は 『①こまかに。・・(略) ③こ(子)。小さいもの、子供。動物の幼少なるもの。④人を軽んじて呼ぶ時につける言葉』 となっている。
一方、国語辞典で「こねこ」を引くと、『小猫・子猫・仔猫』の3通りの書き方が出ている(講談社『日本語大辞典』)。 「仔猫」という書き方は、かなり一般化しているといって良さそうだ。 特に写真集などに好んで使われているような気がする。
「小猫」、これは読んで字のごとし、小さなネコのことだろう。 「大猫」に対する言葉というイメージ。 これも私の勝手な印象だけれども、大きさ順に並べるとすると、小さい方から 仔猫、子猫、小猫、中猫、猫、大猫、巨猫、だろうか。
「こねこ」は単独で使うよりも「こねこちゃん」って感じですね。 「コネコ」は「こねこ」より少し突き放した感じ。 「子ねこ」は、童話の表紙を思い浮かべてしまう。「猫」という字をまだ知らない子供用の使い方というイメージがある。 「子ネコ」は、生物学的に見て大人ではないまだ子供のネコだという意味。
「こ」という音は、日本人にとって、「子・小」など、小さくて可愛らしいものをイメージさせる音だ。 わずか3シラブルの「こねこ」という言葉の中に2回も「こ」の音を繰り返す「こねこ」という言葉は、 それだけでも、小さくて可愛いものを強くイメージさせる言葉だと思うのだが、どうだろうか。
以上、私の勝手な印象を書かせて頂きました。
{補足:動植物のカタカナ書きについて}
内閣告示第三十二号(昭和21年11月16日)で「動植物の名称はカナ書き」と決められる。 その後、昭和56年10月1日付けで廃止。 しかしカナ書きは習慣として今でも一般化している。
![トロとチャトラン](https://nekohon.jp/cats-wp/wp-content/uploads/2019/10/0701-toro-biku.jpg)