ファイル4:消えたストーブの謎

名探偵・麗尾智美矢五郎(レオち みゃごろう)の事件簿シリーズ

うちは山あいの山村なので、冬はかなり寒い。

同じ近畿地方といっても、大阪市内と比べると5度は違うのではないだろうか。 特に朝夕はきりきりと冷え込んでくる。 その上、家の普請は隙間だらけの古日本家屋ときている。 家の中にいて、全ての窓を閉めていても、 すきま風がひゅうひゅうと吹き抜けていくのである。 いつかの吹雪の夜には廊下の隅に雪が積もった。 家の中に雪が積もるというのは、さすがにあまり快い物ではない。

そのかわり、換気の心配はいらない。 家の中で大型灯油ストーブをガンガン炊いている。 高さ80センチもある円筒形のストーブだ。 雪国ではお馴染みのタイプである。

この灯油ストーブは、いわゆるファンヒーター方式だから ストーブの真上は熱くならない。 なかなかの優れものだ。 ストーブの上が焼けてしまうような古いタイプは うちでは怖くてとても使えない。 猫達が万が一でも飛び乗ったら大変なことになるから。

猫達もたちまち学習した。 ストーブが点火されると、嬉しそうにぞろぞろと集まってくる。 そしてストーブのぐるりに寝ころんで 飽きることなく毛繕いしている。

そのうちに、ストーブの上がほんわり暖かくて快適だということに気づいた猫も現れた。 ビク、おつう、みけの軽量組がストーブの上で丸くなるようになった。

ストーブと、猫達。 なんとも平和な風景だ。 冬はやはりこうでなければいけないね。

雪をかぶった松

が、・・・・・

ある日、猫達に悲劇が起こった。 突然ストーブが消えてしまったのである。

猫達は知っている。 ストーブを点けるには人間の手が必要なことを。 少なくともレオは知っている。 にゃおにゃおと私を呼びに来る。

レオに案内されてストーブを見た私は首をかしげた。
「変ねえ?灯油切れでもないし・・・」
リセットしてやっとストーブが点いた。

が、次の日。 またストーブが突然消えた。

またレオに呼ばれて見に行った。 おかしい。 故障かも知れない。 故障なら、火を扱う道具、危険である。 火事になったら大変だ。 換気扇などをきれいに拭いて、灯油も満タンにして、また点火。

「もう一度消えたら、修理に出した方がいいかも? ストーブ無しはつらいけれど、火事よりはマシでしょう」

猫達は考え込んでしまった。
「この時期にストーブ無しなんて!」
「絶対にそんなのダメ!」
「あり得にゃーい!」
「我慢できにゃーい!」
「ストーブ、なんで消えちゃうんだろ」
「消える原因を突き止めなければ」

そして、いつもの通り、猫達の頼みは・・・
「麗尾智名探偵、にゃんとかして~~~」

さすがの麗尾智名探偵も、しかし、今回の事件には頭を抱え込んでしまった。

‘血塗られた口事件’や‘ハレー彗星事件’のように、犯人が物的証拠を体中につけて 歩き回っているわけではなく、また ‘光るウンチ事件’のように、年齢の功で犯人を簡単に推測できる事件とは違っていた。 さすがの麗尾智名探偵にも、ストーブが消える原因なんか分かるはずがなかった。 猫は(ママも)機械に弱いからね。

しかし、ストーブは、死活問題である。 なんとしてでも知恵を絞って原因を究明しなければならぬ。

麗尾智名探偵は、ママの肩越しに読んだ推理小説の内容を思い出した。

「確か、餌場百回とか書いてあったな。 餌場に百回通えば、どんな難事件でも解決できるという話だったな」

あの、「餌場百回」ではなく「現場百回」の間違いではないでしょうか。いえ、餌場にしても現場にしても、猫がそんなむつかしい漢字を読めたってこてはすごいと思いますけれどもね。

名探偵は早速、餌場百回を実行に移すことにした。 せっかく餌場にいっても食べるものがないのはつまらないので 行くたびににゃあにゃあ鳴いて刺身をせがむことにした。 ママは「どうしたの、最近、食欲旺盛ね」と不思議がったが 名探偵は食欲どころではない、 ほんとうは食べたくないのだが、餌場百回だから 仕方なく通っているのだ。

名探偵の苦労を知らぬママは、鳴いてもなかなか刺身をくれない。 名探偵はそれでもしつこく、餌場百回を実践していた。 なにしろ猫達全員の幸せが名探偵の両肩にかかっているのだ。 あ、猫には人のように出っ張った肩はないから、かかりようがないか・・・ まあ言葉上の表現はどうでもよろしい。 要するにだ、名探偵自身も、ストーブ無しで冬を越したくはなかったのである。

もう何回目の餌場だったのかわからぬ。 猫の場合、指で数えたくても 前足5本後ろ足4本×左右の、総計18本しか指がないからね。 名探偵は、それにくわえて、肉球の数とシッポの数も足した。 それら全部を足しても百にはまだ届かなかったが かなりの回数ではあった。

冷蔵庫の前に座り込み、 にゃあ、にゃあ、にゃあ、とママを呼ぶ。 それからママのところまで行って、脛をチョイチョイ引っ掻いて
にゃあ、にゃあ。
また冷蔵庫の前に行って
にゃあ、にゃあ。

「うっるさいなあ。お刺身、無いわよ。今日は買い物いっていないし」
「にゃあ、にゃあ」
「猫缶にしなさい」
「にゃあ」

と、ママの声にぴくりと反応した者があった。 他ならぬ、トロこと怪猫トロ面相である。

怪猫トロ面相はほわほわ暖かい場所でノンビリうたた寝している最中だった。 冬の日だろうと、外は雪だろうと、飼い猫には関係ない。 家の中には大きなストーブ。 一日中、寝て食べてまた寝るのが仕事のようなものだ。

その、大事な仕事、食べること。 食べる話を食いしん坊のトロ面相が聞き逃すはずはない。

「にゃに~♪ 猫缶にゃ!?」

トロ面相は、むっくと立ち上がると、勢いよく蹴って、床に飛び降りた。

どすん!

とたんに、・・・

ガチャッと不気味な音。
ボンッボーッ プシューーーー
ストーブが消えた。

麗尾智名探偵、それを見て叫んだ。

「やっぱり犯人はお前か! 今回はまさか違うかと思ったが 怪猫トロ面相、お前がストーブ消しの犯人だったんだな!」

「え~~? どういうこと?  ボク、知らないにゃ~~ん」

「説明はママがする! さあ、ママ、どうぞ」

麗尾智名探偵は謙虚にも、名誉ある説明役をママに譲った。 奢らない所が名探偵たるゆえんだ。

「あのねートロちゃん。 このストーブにはね、地震対策装置がついているのよ。 揺れると自動的に火が消えるの。 アンタがそんな勢いでストーブを蹴って飛び降りたら ストーブが揺れるでしょ。 地震と間違えて自動消化装置が働いちゃったのね。 あんたは7キロ超の猫なんだから ストーブの上で寝ちゃだめよ」

「つまりは、そういうことにゃのだ。 これで一件落着なり~~」と 麗尾智名探偵は高らかに宣言した。

ただちにストーブには対策がほどこされた。 ストーブの上に古い鍋が置かれ、 落ちないようにガムテープで貼り付けられた。 鍋に場所をとられて、猫達は寝られなくなってしまった。

それ以後、ストーブが突然消えるという事件は起こっていない。

ストーブ
猫

  怪猫トロ面相

猫

  名探偵・麗尾智 美矢五郎

*この麗尾智 美矢五郎シリーズは、実際にあった話を 思い切り脚色して書いています。

名探偵レオ「吾輩に解けぬ謎はにゃい!」