ファイル7:なくなった首輪の謎
名探偵・麗尾智美矢五郎(レオち みゃごろう)の事件簿シリーズ
トロこと怪猫トロ面相が、麗尾智名探偵を探してやってきた。
「事件を解決して欲しいニャン!」
「何の事件?」
「ボクの事件ニャン!」
「・・・ 過去の事件もみんにゃお前の事件だったけど?」
「ええ?そうだったっけ?」
「そうだよ。だって犯猫はいつも怪猫トロ面相だったから、お前の事件じゃん」
「そうにゃのか。ボクって偉いんだね」
「偉いのかなあ??」
名探偵は首をかしげた。 普通、事件の犯人のことを“偉い”とは言わないよね。
「で、ね、ボクの事件を解決してくれる?」
「どうせまた犯猫はトロ自身なんだろう。だったら解決するも何も、自分でわかるはずじゃないか」
「今度は違うニャン!だってボクが被害者ニャンだから」
「トロが被害者?」
「そうニャン」
それなら、犯人はトロ面相ではないのかもしれないと、名探偵は考えた。
「では、最初から話してみろ」
「あのね、無くなったニャン」
「何が?」
「ボクのニャン」
「ボクの何さ?」
「首」
「バカ言え、首はちゃんとつながっているぞ」
「無いニャン!」
「あ、わかった、首じゃなくて首輪ね」
たしかにトロ面相は首輪をしていなかった。 いつもの自慢の首輪を。
猫たちは全員首輪をしている。 猫用首輪である。 普通のバックルと違って、力を入れて引っ張ると はずれるように工夫されている奴だ。 首つり事故を防ぐためである。
トロ面相の首輪だけは猫用首輪ではない。 首がぶっとすぎて、猫用ではサイズが合わないからだ。 仕方なく、小型犬用首輪を改造してつけている。 留め具の金具をはずし、かわりに細いゴムひもで結んだ首輪で、ママの細工である。 強く引っ張るとゴムが5センチも伸びて首からはずれるようになっている。 さらに引っ張り続ければゴムが結び目ごと穴から抜けるしくみだ。
「トロはドジだからね。どこで何に引っかかるかわからないからね」
とのことだが トロ面相はこの首輪が自慢で仕方ないのである。 というのも、猫用首輪はたった680円前後だが この犬用皮首輪は税込みで3675円もしたからだ。 麗尾智名探偵でさえ、3675円の首輪は持っていない。
「3675円って、680円の100倍もすごいんだよね」 とトロ面相は威張っている。
他の猫たちは、3675円が680円の100倍という計算には ちょっと納得がいかないような気はするものの、 猫は一般にあまり数にうるさくないので、 トロの計算式を認めてあげている。
トロ面相自慢の首輪
その大事の首輪が無くなったらしい。 トロ面相としては、大事件だろう。
「自分でなくしただけじゃないか?」
「違うよぉ。 ボク、首輪のはずしかた、わからないもん。」
そりゃそうだと、名探偵は納得した。 トロ面相には、自分で自分の首輪をはずす知恵はない。
「いつ無くなったんだ?」
「ええとね、今日」
「昨日は確かにあったんだな」
「あった・・と思う」
「じゃあ、朝起きてから何をした?順番にすべて説明してごらん」
トロ面相は一生懸命に考えた。 朝おきてから、もう3時間はたっている。 3時間も前のことを思い出すのは、トロ面相にとっては大変だったのだ。
「ええとね、まず起きた」
「それから」
「ご飯食べた」
「それから」
「水飲んだ」
「それから」
「またご飯食べた」
「それから」
「ええと、オシッコした」
「それから」
「またご飯食べた」
「それから」
「ウンコした。いっぱい出たよ!」
「それから」
「出したらお腹空いたから、またご飯食べた」
「それから」
「ちょっと寝た」
「それから」
「目が覚めたらまたお腹空いたから、ご飯たべようとして・・・」
突然トロ面相の顔が悲しそうになった。
「もうご飯がなかったんだよ!!」
「そんなに何回も食べたら、残っていないだろう」
「もうご飯がなかったんだ。お腹すいていたのに」
「それから、何をした?」
「ご飯がなかったんだ・・・」
トロ面相の思考はご飯がなかったところで停止してしまった。 こうなると、もう他のことは考えられない。
「ご飯がなかったんだ。お腹すいてたのに」
「わかったよ。それから、何したんだ?思い出して」
「ご飯がなかったんだよぉ・・・お腹空いたよぉ・・・」
こりゃだめだ、と、名探偵はあきらめた。 トロ面相はそこに置いておいて、まずは台所に調査に出かけた。
台所にはなにも異変はなかった。 お皿のカリカリは一粒も残っていなかった。 少なくとも、ここまではトロ面相の自白、否、説明は正しかった。
次の部屋も調査した。 となりの部屋ではパパが居眠りしていた。 名探偵は、パパを起こさないように気をつけながら、 念入りに臭いを嗅いで調べた。
ゴミ箱の中も調べた。 するとそこであるモノを発見した。
あんパンの空き袋だった。
「これでもう、大体わかった。」
麗尾智名探偵は、あんパンの空き袋を見ながら、にやりとした。
また台所に戻った。 弾みをつけて棚の上に飛び乗り、フードケースを引っ掻き始めた。 このフードケースは、かまぼこ型のプラスチック製で、いつもパンがはいっている。 フタはくるんと回転して上に開くようになっている。 猫とはいえ、名探偵ほどの知能があれば、こんなフタを開けるのは朝飯前である。
しつこくカリカリと引っ掻いていると、フタが少し持ち上がった。 名探偵は鼻先を突っ込んで、フードケースの中をのぞき込んだ。
案の定、トロ面相の首輪が落ちていた。
「やっぱりな。見つけたぞ。あとはママに頼もう」
麗尾智名探偵は、 満足して飛び降ると、その足でママを呼びにいった。
名探偵の推理は、こうである。
お腹が空いたトロ面相は、カリカリが無いのを見て、例のごとく あんパンを盗み食いしようと思ったのだ。 あんパンはフードケースにはいっている。 なんとか回転式のフタを押し上げて、 (食べ物のこととなるとトロ面相でも知恵がまわる) 首を突っ込んで中のあんパンを盗ろうとしたときに パパに見つかって、慌てて逃げたのだ。
その時、落ちてきたフタに挟まって、首輪が抜けてしまったのだが あんパンを盗めなかったショックで、首輪が抜けたことに トロ面相は気が付かなかったのである。
↓つまり、こういうことらしい。
トロ面相はあんパンを盗み損ね、
トロ面相の歯形がついたあんパンはパパが食べた。
もともとパパのあんパンだったのだから当然ではある。
ちなみに、あんパンの空き袋をゴミ箱に捨てたのはママである。
「っんとにダラシナイんだから!」と怒りながら。
かくて、怪猫トロ面相は、無事、自分の首輪を取り戻した。 今でも自分は被害者だと思っているらしいが 今回もやはり、真犯人はトロ面相自身と言って良かった。
(2007.6.25.)
怪猫トロ面相。
名探偵・麗尾智 美矢五郎
*この麗尾智 美矢五郎シリーズは、実際にあった話を 思い切り脚色して書いています。