イタチ物語

猫とは関係の無い話になるが・・・

田舎に住んでいる楽しみの一つは、野生動物達の存在だろう。 様々な動物達が家の廻りをうろついている。 山へ入ればもっと多くの動物達に出会うことができる。

今の家に引っ越してすぐ、軒下の石の上にイタチの糞を見つけた。 なので、イタチが出没するらしいと言うことは早くに知れた。

最近はフェレットを飼っている人も多いから イタチの糞がどんなものであるか想像出来る人は多いと思う。 フェレットの和名はヨーロッパケナガイタチ。 同じイタチの仲間だから、糞の形状や大きさなどはほぼ同じだ。

ただ、野生のニホンイタチの糞は、飼われているフェレットの糞より ずっと多彩だ。 主食はネズミだそうだが、自然界で生き延びるのは厳しいから、 食べられるものは何でも片っ端から食べているのではないだろうか。 野生の餌ははフェレットフードほど消化もよくない。 昆虫のカケラ、木の実、その他、消化されない破片は糞に出てくることになる。 野生イタチの糞は結構カラフルでもある。 私などは見つけるたびに、小枝の先で糞をほぐして その含有物を調べたくなる衝動を抑えきれないくらいだ。 科学的に調査するわけでなし、ほぐしたところでその成分までは さっぱり分からないのだけれど、それでも
 「ほう、色々混ざっているなあ」
くらいは素人でも見分けられる。

もし野生イタチの糞を見つけたら一度調べて見給え・・・なんて 変な趣味を他人に押しつけるのは良くないね。

イタチが生息していることは分かったが、その姿はなかなか 見ることは出来なかった。 夜にドライブしていると道路を駆け抜けていくイタチを見ることはあったが 間近でじっくりと全身を見たことは、一度もなかった。 イタチは小さいし、用心深い。 そう簡単にみられる動物ではない。

さてさて。 ここからが本題。

ある日、私は、トイレに入って驚いた。 なんとウンコがあったからだ。

なになに、トイレにウンコがあるのは当然だ?

そりゃもちろん、もしそれが、人間用トイレに人間のウンコがあったとか 猫トイレに猫のウンコがあったとか、ウサギトイレにウサギのウンコがあったとか、 庭に犬のウンコがあったとかいうのなら、全然不思議な話ではない。 それどころか、我が家の場合、 土間に猫のウンコがあるとか、台所にウサギのウンコが転がっているとか、 縁側にシマリスのウンコが落ちているとか、畳に茶色いウンコ線が引いてあるなんてことも 全然珍しくないのだ(汚くてゴメン)

が、私が驚いたのは、 人間用トイレの戸口のど真ん中に 野生イタチのウンコが堂々としてあったからだ。 のみならず、その横にご丁寧にも 少量の尿までしてあった。

すぐに写真を撮った。 これである。

糞

(こんな写真お許しを~~~)

見た途端に、イタチだと思った。

まず、大きさがそのくらいの動物のものだということ。 細くて、ねじれていて、黒っぽいこと。 それから、イタチはよく石の上などに目立つように糞をする。 ナワバリのマーキングの意味らしい。 トイレの人工的な床は、見ようによっては一枚岩のように見えなくはない。 どうやらこの糞と尿は、イタチのマーキング跡らしいのである。

イタチが床下にでも住み着いたかと、ちょっとワクワクした。 が、イタチのサインはそれきり見られなかった。

この糞写真を撮ったのは、2003年1月末。 以来ずっとイタチの気配を感じ取ろうと気を付けていた。

時々屋根裏で何か音がする。 イタチかもしれない。

時々ねこ達が床下を警戒している。 イタチかもしれない。

しかし、その姿はさっぱり見ることは出来なかった。

そして・・・ 1年近く立った2004年の冬。

雪が積もっていた。 豪雪地帯ほどではないが、冬にはけっこう雪が降り、なかなかとけない。 庭が雪に覆われると、犬も一日中家の中にいる。 軒下に置いてある犬小屋は使われることはない。

その、うち捨ててある犬小屋を何気なく覗いた私はビックリ仰天した。 中でイタチが死んでいたのである。

なぜ野生イタチが犬小屋の中で死んでいたのか、 多分それは永久の謎だろう。 犬小屋はイタチが隠れ家とするにはあまりに大きすぎる。 夏用の犬小屋だから、入り口は大きく開いているし、 真上から落ちる雪は防げても、風はほとんど防げない。 その上、イタチの天敵、犬の臭いがプンプンしているはずだ。 普通なら野生イタチが潜り込むとは考えにくい場所である。

なのに、なぜか、その野生イタチは、 うちの犬小屋の中で死んでいた。

もちろん犬が運び入れたはずはない。 ずっと家の中にいたのだから。 他にイタチを犬小屋に運ぶ動物があるとも思えない。 隣のいじわるじいさんが嫌みで入れたのかとも疑ったが それなら人の足跡が残っているはずだ。 雪の上に人の足跡はなかった。

どう考えても、野生イタチは自らの死に場所を犬小屋と選んだとしか思えない状況だった。

イタチを新聞紙の上に出し、じっくり観察した。

ニホンイタチ。 性別・年齢は不明。 外から分かる外傷無し。 吐瀉物の形跡無し。排泄物も無し。 ひどく痩せているとか、毛皮がボロボロとかいうこともない。 実に綺麗な死体だった。 さっぱり死因がわからない。

仕方ないので、また写真を撮って、それから山へ登って埋めた。

イタチ君、安らかに眠って下さい。

イタチ