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「 山と田畑をシカから守る 」
おもしろ生態とかしこい防ぎ方
井上雅央・金森弘樹
(いのうえ まさてる・かなもり ひろき)

農山漁村文化協会
2006年発行 NDC:654.8
ISBN: 9784540052118

 

 

【推薦:管理人】

私は小さな畑を借りて耕している。

そこには頻繁にシカがやってくる。姿を見ることは滅多にないけれど、柔らかい土に残された足跡や糞でシカが来たとわかる。裏山を歩いていて、シカを見かけることもある。

トウモロコシの芽が20cmほどに育ったとき、見事にシカにやられた。地面スレスレまで食べてあったが、残された足跡からシカと判断した。これで今年のトウモロコシは全滅と思ったら、よほど強い植物らしく、また生えてきた。するとまた食べられた。荷造り紐と棒杭の、臨時の柵で囲ってみた。2度食害されたトウモロコシは、くじけずに伸び続けた。ついに私の胸より高くは育たなかったけれど、それでも何本かは実をつけ、私の朝食になった。

蔓無しインゲンや枝豆の葉が、膝くらいの高さで刈り取られたようにきれいに食べられたこともある。近所の人たちは、やれヌートリアだ、いやアナグマだと騒いでいたけれど、私はこれもシカと判断した。背の低いヌートリアやアナグマがあの高さに揃えて食べるとは思えない。

ニホンジカは美しい動物だ。シカ科の中でもとりわけ端正で美しい。山中で出会うと、そのあまりに優美な姿に毎回見とれてしまう。すらりと伸びた細い首と、優しげな目。重力を忘れたかのような、あまりに軽やかな足の運び。その姿を愛でた人々により、北アメリカほか諸外国に連れて行かれ、一部は野生化しているという。同じ蹄をもった動物でも、ニホンカモシカやイノシシではあの優雅さは出ない。

しかも臆病だ。ひょうきんなタヌキや、ずるがしこいサルと違い、あまり人前に姿を現さない。人を見れば逃げる。谷一つ隔てた向こう尾根でも、人さえ見れば、警戒音を発しながら逃げる。悠然と立って人間観察するニホンカモシカとは大違いだ。

けれども、その美しく臆病なシカが、害獣として、農業や林業関係者から嫌われているのも事実なのである。自分ちの畑を食害されて、「シカさん今日も来たの、うちの野菜そんなに美味しい?」と呑気につぶやく人間なんて、私くらいのものかもしれない。

この本はなかなか面白かった。シカの生態がよくわかるし、シカが里に出る気持ちもわかった。シカを防ぐ方法もなるほどと思った・・・それを私が実践するかどうかはわからないけど。サルやイノシシの情け容赦もない荒らし方と違って、シカは、食痕さえなんとなく美しい。サルはぜひ防ぎたいが、シカにはなぜかあまり腹は立たない。むしろ、たまには来てくれないと寂しい気がする。・・・なんて書いたら、隣近所にひどく怒られそうだが。

農業や林業関係者向けに書かれた本だが、下手な動物学者の本より詳しく、シカを身近に感じられる。シカ好き動物好きな人なら、誰でも興味深く読める本だ。また、この本をヒントにシカウォッチングに出かけるのも楽しいかもしれない(ただし被害者の方々の気持ちを逆なでしないよう十分に気をつけてね)。

(2009.8.10.)

シカ足跡

↑うちの畑に残されたシカのヒヅメ跡。2009年3月撮影。
(わかりやすくするためコントラストを強調してあります)

 

【目次】

1 知っておきたいシカの生態と能力、弱み
  (1)林縁の生活者 (2)何でも食うやっかい者 (3)シカの一日、シカの一年 (4)シカの繁殖戦略 (5)野外で見るシカの養子・運動力・痕跡 (6)シカはこんなことが苦手−嫌がらせの極意は

2 山のシカ対策編―食害だけでない山の被害
  (1)増え続けるシカの害 (2)食べる (3)傷つける (4)崩す (5)ヤマビルを増やす

3 あなたの山を上手に守る―山林管理をトータルに考える
  (1)柵で守る (2)樹木単位で守る (3)個体数管理の考え方 (4)シカに強い林地管理とは

4 里のシカ対策編―全国に展開するシカ寄せ農業
  (1)里に来るシカ (2)「緑草帯」ができるわけ (3)シカ寄せ農業の実態 (4)忍び寄るシカ (5)シカ忍び寄りの事実を見る

5 シカ除け農業に向けて
  (1)「シカ寄せ農業」が生まれたわけ (2)日常作業の根本的な見直しを−シカ寄せ農業からの脱却 (3)上手な柵の活かし方 (4)追い払いも効くかもしれない

6 支援のあり方を見直す
  (1)農家は何に苛立っているのかを知る (2)効果の有無の情報公開 (3)柵管理の主役は誰か−大規模恒久柵の場面に見る四つのポイント (4)「集落ぐるみ」以外に道はない

 

*****著者プロフィール(本著より)*****
井上雅央(いのうえ まさてる)
昭和24年4月14日奈良県生まれ。愛媛大学大学院農学研究科修士課程修了。京都大学博士(農学)。奈良県農業試験場、奈良県果樹振興センターなどを経て、高原農業振興センター所長。
著書に『山の畑をサルから守る』『ハダニ』『60歳からの防除作業便利帳』(農文協)、『ダニと病気のはなし』(技報堂)がある。

金森弘樹(かなもり ひろき)
昭和36年3月3日島根県生まれ。島根大学農学部林学科卒業。島根県林業技術センターを経て、島根県中山間地域研究センター鳥獣対策グループ科長。昭和59年以降、ニホンジカ、イノシシ、ニホンザル、ツキノワグマなど野生動物の保護管理と被害対策について調査研究。
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