改正遺失物法の問題=時代を逆行する動物虐待法!?

平成18年6月15日に遺失物法が改正され、 平成19年(西暦2007年)12月10日から施行されました。

大きな変更点は、6ヶ月だった保管期間が原則三ヶ月に短縮されたことなどですが、 それ以上に大きな問題は、猫(と犬)に関する取り扱いが変更されてしまったことです。

改正前は、猫にも遺失物法が適用されていました。 (日本の法律では猫は「物」として扱われます)。 つまり、迷子猫を保護した場合、法律上は落とし物を拾ったと同じ解釈がされるため、 まず最寄りの警察に届け出る、ということが行われていました。

 →参考ページ:遺失物法改正前の、迷子猫と法律について 

ところが、改正後は、遺失物法における猫の取り扱いが大きく変更されてしまいました。

所有者が不明な猫や犬には遺失物法が適応されなくなり、猫や犬は警察ではなく、 自治体(保健所や動物管理センター)に届け出ることになったのです。注1

このように、遺失物法は改正されましたが、狂犬病予防法は依然改正されていません。 つまり法的には、犬はわずか3日間の保管の後、殺処分しても良いということになります。 そして、猫にいたっては、・・・法的には3日間という猶予期間すらありません。 猫は、即日殺処分される可能性さえあるのです!注2

迷子札や鑑札等で所有者がわかる犬猫、および、犬猫以外の 逸走した家畜については、改正後も遺失物法が適用されます。注3

しかし、ここでも楽観はできません。 動物は、 わずか2週間で売却できることになったからです。注4

しかもあきれたことに、遺失物が一万円以上の「貴重な物件」であれば、3ヶ月間、 インターネット等で公表されることになりましたが、犬猫は対象外ですから、 そういう処置を受けることも義務付けられていません。注5

つまり、動物を殺して作った毛皮のコートならネットで所有者探しされるのに、 暖かい血が流れている生きた猫は、法的には、ネット公開する義務はない、ということになったのです。

愛猫は、決して迷子にさせぬよう、もし万が一の場合も所有者がわかるよう、 常日頃から迷子札等を装着させておきましょう!

猫

なぜ問題か、さらに具体的に見てみる

実は、迷子動物についても、インターネット等で情報提供するなどして、 「所有者の発見に努めること」とされてはいます。注6

環境省 動物再飼養支援 収容動物データ検索サイト というサイトもあります。 ここで自治体に持ち込まれた迷子猫を検索できることになっています。 

しかし、この迷子データベースに参加している自治体は、2007年11月26日現在、 対象となる99自治体のうち、わずか19自治体にすぎません。 しかも、その19自治体すべてで迷子猫を検索してみたところ、 雄3頭雌4頭の計7頭のみ、すべて秋田市保健所衛生検査課で保護されている猫です (2007年11月26日21:30時現在)。

これで機能しているといえるのでしょうか? 秋田市以外の自治体には、迷子猫を救おうという気が無いのだとしか思えません。

ちなみに。

私が住む京都府の、「京都府動物愛護管理センター」を見てみます。 ネットで公表されている数字が少々古いのが気になるところですが、 平成15年度、センターに保護された犬の数は計929頭(成犬641,幼犬288)、 猫は計5528頭(成ねこ739,幼ねこ4789)。 そのうち、(里親等へ)譲渡されたのは、犬が計97頭(譲渡率10.4%)。 猫の譲渡については記載がありませんし、また、ホームページのどこを探しても 猫の譲渡に関する記述は見つけられませんでした(2007.11.27現在)。

一般的に、自治体に持ち込まれる数は、犬より猫の方が多いのです。 しかも上記の例では86.6%が、里親を見つけやすいとされる子猫です。 にもかかわらず、こういう数字なのです。

一方。 旧遺失物法時代、警察に届けられた犬猫の資料を探してみますと、…

大阪府の数字がありました。去年度は府内各署で保護された犬猫は 合計6199、そのうち、無事飼い主の元へ戻れた犬猫は4259匹。 返却率は68.7%でした。(読売新聞) 迷子犬猫たちは、以前は、3頭のうち2頭以上の割合で、なつかしい 我が家に帰ることができていたのです・・・!

これでは、迷子猫を保護して助けるつもりで「動物愛護センター」に届けたら、 元の飼い主探しも里親探しもされずに殺処分されてしまう可能性が 高いような気がしてならないのは私だけでしょうか。 改正遺失物法は、時代に逆行した動物虐待法といえるのではないでしょうか。

【追記】 

もうひとつ、例を挙げます。 岡山県の例です。

中國新聞』 2008/8/15付けのニュースによれば、

『’07年度に同センター(=岡山県動物愛護センター、岡山市御津伊田)や 県内各保健所が捕獲・保護または飼い主から引き取った犬は2487匹、猫は3902匹。 うち犬2191匹、猫3890匹が殺処分され、殺処分率は約95%だった。 飼い主への返還や新しい飼い主に引き取られたのは 犬296匹、猫12匹で、返還・譲渡率は5%にとどまった。』 (太字:管理人)

猫だけに限れば、返還・譲渡率は0.3%です。

にもかかわらず・・・

たとえば行政作成のポスターや、本屋の店頭に並ぶ 「ペット関連法律」を解説する本などでは、 迷い犬猫を保護したら地元自治体に届けるのが法律だと、 実にあっけなく書いてあったりします。 しかし保健所やセンターに預けた結果は書いていない。 さらに、迷い犬猫でも所有権は元飼い主にあり、それを勝手に 自分で飼うのは「遺失物横領罪」だと脅すようなことを併記していたり。 それを読んだ人は迷うことなく、保健所やセンターに迷い猫を届けてしまうでしょう!!

行政のポスターには立場というものがあるかもしれませんが、 ペット関連法書籍の著者さんたちはそれより自由なはずです。 法律は法律として、仮にもペットのプロを名乗るなら、 「法律が変わった、今後は犬猫は自治体に届けろ」としか書いていない本の著者は 血も涙も無い冷血漢と言われても仕方ないと思います。 実態をきちんと調べてから、もっと優しい心で本を書いて欲しいと切に願います。

(追記:2008.8.15.)

【追記2】

やはり、・・・恐れていたとおりになったようです。

『迷子の犬猫、短期で殺処分 法改正後、飼い主捜せず』
http://www.47news.jp/CN/201001/CN2010012701000015.html
(2010.01.27. 47NEWS

『全国113 地方自治体「行政施設における犬及び猫の引取りに関する調査」結果発表』
http://news01.net/pictures/www.planning-boat.com100129.pdf
THEペット法塾、2010 年1月26 日、PDFファイル)

調査は09年6~7月に47都道府県と政令市、中核市など、 計113自治体を対象に実施し、そのうちの112自治体から回答を得たものを まとめたそうです。

ここに全文を転記したいところですが、著作権法に引っかかると困りますので、 ニュース記事の一部だけを以下に引用します。 全文はどうぞリンク先をご覧下さい(記事削除やリンク切れになりませんように!)

『2007年に遺失物法が改正された後、迷子の犬や猫が飼い主捜しを 十分にされないまま短期間で殺処分されていることが27日、 動物問題解決を目指す弁護士らでつくる「THEペット法塾」(大阪市北区)の調査で分かった。』

『全国113 地方自治体「行政施設における犬及び猫の引取りに関する調査」結果発表』

この調査結果によれば、預かってから殺処分するまでの最短日数は、 犬は平均5.6日、猫はもっと少なくて、たったの4.5日!

そして、警察から引き渡された犬や猫の90%以上を殺処分していた自治体もある一方で、

『過去5年間で殺処分された後に飼い主が見つかったケースがあるかどうかについては、 約3分の1の自治体が「ある」と答えた。』

『全国113 地方自治体「行政施設における犬及び猫の引取りに関する調査」結果発表』

愛猫・愛犬は、絶対に迷子にさせないこと、万が一行方不明になったら、 すぐに必死で探してあげないと1週間も待たずに殺されてしまう、ということのようです。

(追記:2010/01/27)

猫

【注記】

各法文の、該当箇所だけを抜粋して下に書きました。

全文はお手数ですが検索してお読みください m(_ _)m  (↓から検索できます)

【注1】

第四条(中略)
2 前二項の規定は、動物の愛護及び管理に関する法律(昭和四八年法律第百五号)第三十五条第二項に規定する犬又はねこに該当する物件について同項の規定による引取の求めを行った拾得者については、適用しない。
(遺失物法)

第35条 都道府県等(都道府県及び指定都市、地方自治法第252条の22第1項の中核市(以下「中核市」という。)その他政令で定める市(特別区を含む。以下同じ。)をいう。以下同じ。)は、犬又はねこの引取をその所有者から求められたときは、これを引き取らなければならない。この場合において、都道府県知事等(都道府県等の長をいう。以下同じ。)は、その犬またはねこを引き取るべき場所を指定することが出来る。

2 前項の規定は、都道府県等が所有者の判明しない犬又はねこの引取をその拾得者その他の者から求められた場合に準用する。
(動物の愛護及び管理に関する法律)

【注2】

第2条 この法律は、次に掲げる動物の狂犬病に限りこれを適用する。ただし、第2号に掲げる動物の狂犬病については、この法律の規定中第7条から第9条まで、第11条、第12条および第14条の規定並びにこれらの規定に係わる第4章及び第5章の規定に限りこれを適用する。
一 犬
二 猫その他の動物(牛、馬、めん羊、山羊、豚、鶏及びあひる(次項において「牛等」という。)を除く。)であって、狂犬病を人に感染させるおそれが高いものとして政令で定められているもの。
(以下略)

第6条  (中略)
7 予防員は、第1項の規定により犬を抑留したときは、所有者の知れているものについてはその所有者にこれを引き取るべき胸を通知し、所有者の知れていないものについてはその犬を捕獲した場所を管轄する市町村長にその旨を通知しなければならない。

8 市町村長は、前項の規定による通知を受けたときは、その旨を二日間公示しなければならない。

9 第7項の通知を受け取った後または前項の公示期間満了の後一日以内に所有者がその犬を引き取らないときは、予防員は、政令の定めるところにより、これを処分することができる。但し、やむを得ない事由によりこの期間内に引き取ることができない所有者が、その旨及び相当の期間内に引き取るべき旨を申し出たときは、その申し出た期間が経過するまでは、処分することができない。

(狂犬病予防法)

【注3】

第2 1(中略)
(4) 「逸走」とは、自ら逃げることをいい、「逸走した家畜」とは、他人の占有していた家畜であって、逸走して当該他人の占有を離れたもので、誰の占有にも属していないものをいう。「家畜」とは、その地方において人に飼育されて生活するのが通常である動物をいい、たとえば、牛、馬、豚、鶏、あひる、犬、ねこ等が該当し得る。
なお、野良犬や野良ねこは他人が占有していたものではなく、また、捨て犬や捨て猫は逸走したものではないので、いずれも「逸走した家畜」には該当しない。
また、犬又はねこが、野良犬又は野良ねこであるか否かについては、首輪及び鑑札の有無、拾得されたときの状況等を総合的に判断するものとする。
(以下略)
(警察庁丙地初第22号 遺失物法等の解釈運用基準)

【注4】

第9条 (中略)
2 警察署長は、前項に規定によるほか、提出をうけた物件(埋蔵物及び第35条各号に掲げる物のいずれかに該当する物件を除く。)が次の各号に掲げる物のいずれかに該当する場合において、公告の日から二週間以内にその遺失者が判明しないときは、政令で定めるところにより、これを売却することができる。
一 傘、衣類、自転車その他の日常生活の用に供され、かつ、広く販売されている物であって政令で定めるもの。
二 その保管に不相当な費用または手数を要するものとして政令で定める物。
(遺失物法)
第三条(中略)
2 法第九条第二項第二号(法第一三条第二項において準用する場合を含む)の政令で定める物は、動物とする。
(政令第二一号 遺失物法施行令)

【注5】

第八条 警視総監または道府県警察本部長(以下「警察本部長」という。)は、当該都道府県警察の警察署長が公告をした物件が貴重な物件として国家公安委員会規則で定めるものであるときは、次に掲げる次項を他の警察本部長に通報するものとする。
一 前条第一項各号に掲げる次項
二 公告の日付
三 公告に係わる警察署の名称及び所在地

2 警察本部長は、国家公安員会規則で定めるところにより、当該都道府県警察の警察署長が公告をした物件及び他の警察本部長から前項の規定による通報を受けた物件に関する情報を、インターネットの利用その他の方法により公表するものとする。
(遺失物法)

第十一条 法第八条第一項(法第十三条第二項及び第十八条だにおいて準用する場合を含む)の国家公安委員会規則で定める物件は、次に掲げる物件とする。
一 一万円以上の現金
二 額面金額またはその合計額が一万円以上の有価証券
三その価額又はその合計額が一万円以上であると明らかに認められる物
(以下略)
(国家公安員会規則第六号 遺失物法施行規則)

【注6】

第3 (中略)
2 都道府県知事等は、施設に保管する犬、ねこ等の動物(以下、「保管動物」という。)のうち、所有者がいると推測されるものについては公報、インターネット等による情報の提供等により、また、標識番号等の明らかなものについては登録団体等への照会等により、当該保管動物の所有者の発見につとめること。
(以下略)
(平成18年1月20日 環境省告示第26号 「犬およびねこの引取ならびに負傷動物等の収容に関する措置」) 

猫

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【猫の里親募集の仕方とコツ】記事一覧